春疾風

 

・寝て起きて寝て起きてする春の宵

ゴーゴーと風が鳴っております。
わたしのいるこの場所は、
保土ヶ谷の山の上でありまして、
嵐ともなると、
風がうねって舞い、
恐ろしいものでも下りてきたかと眼が覚めます。
割に頑丈なマンションなのですが、
うなる嵐の前では蓬屋と化してしまいます。
あるとき、
ゴーゴー、バタン、
ゴーゴー、バタン、
……の音にすっかり眼が覚め、
やおら起き出し
玄関先まででてみると、
修繕積み立て金から百万円ほどを引き出し直した
エントランスドアが、
トタン板のように
へにゃへにゃぺにゃり、
情けない状態になっているのを目の当たりにし、
ああこれでは、
百万二百万など屁みたいなものと
合点がいったのでした。
竜巻状に舞う強風は、
無抵抗のドアを嬲り、
外から内から、
叩き殴りつけているのでした。
これはもう逃がしてやるしかないとそのとき思いました。
観音開きのドアの片方を常時開けておく。
そうすることにより、
どの方角から吹いてきても、
抑えず逃がしてやることができる…。
そもそも
抑えることなど無理なのだ。
以来、
ここのマンションドアは、
半分は常に開いている状態です。
だからといって、
泥棒殿が不法に侵入したという噂は、
今のところ聞いておりません。

・保土ヶ谷を捻じり鉢巻春あらし  野衾