砂時計の砂

 

・ピンクのは桃か桜か紅梅か

出版の打ち合わせの帰り、
吉祥寺から電車で新宿へ出、
乗り換えのため
エスカレーターに乗ろうとしたときのこと、
ホームから溢れんばかりの群衆が
ちょびちょびさらさらと
進んでいたときに、
中学生よりはおとなびて、
大学生よりは初々しい、
おそらく高校女子のうちのひとりが、
「砂時計の砂みたい」
に対して、
「え! なにが?」と、
もうひとりの高校女子。
「わからない?」
「わからない」
ひとり措いて後ろにいたわたし、
すぐにわかったので
即刻挙手をし発言したかった
のですが、
ここは教室ではなく、
それはできかね、
かといって、
その娘の耳元で囁いたりなどしたら、
このひと変なおじさんと
警察に突き出されることだって
ありえないことではなくアリエール、
だから、
答えを知っているのに、
答えることもかなわなくて
群衆の砂の一粒として、
ただ静かにエスカレーターの
進行に従っておりました。

・武蔵野の校舎おぼろに黙しけり  野衾