紫の山

 

・かっち山ふるさと匂う薄霞

一年のこの時期になると必ず思い出すのが、
秋田在住の叔父が小学生だった頃のエピソード。
季節のめぐりが遅い秋田のことですから、
時期はもう少し後でしょうが、
霞がかかったふるさとの山々は薄紫に見えます。
見えることは見えるけれど、
それを画用紙に描こうとすると、
技術の拙い小学生ではなかなか難しい。
小学生だった叔父は、
山が紫に見えたので、
画用紙に紫の絵の具を塗りたくった。
それを見た担任の先生が、
叔父の頭を
ガツンかコツンかポコッか分からないけれど、
殴った。
叔父は納得がいかない。
山が紫に見えたから紫の山を描いたのに、
なんで殴られなければならないのかと。
その話をわたしは、
叔父といっしょに酒を酌み交わせるようになってから聞き、
そのときは
大口を開いて笑っただけだったが、
あとから思い返すたびに、
笑いは薄くなり、
かわりに底から
哀しみのようなものが浮いてくる。
叔父がそばにいてくれるお蔭で、
農作業はもとより、
父も母も大いに助かっている。

・山紫に塗り子の叔父殴られり  野衾