シェイクスピア・アンド・カンパニイ書店

 

・NHK地味なる娘雪を告ぐ

書名が
『シェイクスピア・アンド・カンパニイ書店』
著者は、
一八八七年生まれのアメリカ人女性シルヴィア・ビーチ。
一九一七年にフランスに渡り、
一九一九年、
たまたま知り合ったフランス人女性・アドリエンヌ・モニエ
の助けを得、
パリで小さな書店を開く。
書店とはいっても、
本の販売だけでなく、貸し本業、出版業も兼ねていた。
その後、
一九四一年、
ドイツ軍のパリ占領によって閉鎖するまでの二十二年間
二十世紀を代表する作家、詩人、評論家たちの、
いわばサロンを提供することになる。
この本に登場するよく知られた作家の名を挙げてみれば、
アンドレ・ジッド、ポール・ヴァレリー、ヴァレリー・ラルボー、
ジェイムズ・ジョイス、エズラ・パウンド、T・S・エリオット、
スコット・フィッツジェラルド、
アーネスト・ヘミングウェイなどなど。
英語圏では発行禁止になったジョイスの『ユリシーズ』は、
シェイクスピア・アンド・カンパニイ書店で出版されることになる。
本が好きな無名の若きアメリカ人女性の作った書店が、
なぜそれほど
表現者たちを惹きつけるだけの魅力を持ったのか、
その秘密がこの本に書かれている。
わたしがこの本を知ったのは、
精神科医の中井久夫さんに依頼し
ご寄稿いただいた原稿によってである。
中井さんは著名な医学者、精神科医であるが、
本好きであることにおいても人後に落ちぬ方であると知った。
本にまつわるなんとも言えぬ
美味しい行き交いが記されており、
読んでいてこんなに楽しい本はそうそうない。
速くは読みたくない本だ。
カバーの袖に
「本を愛するすべての人に捧げる」
とある。

・予報雪なれど降らずの窓を開く  野衾