北上川座談会

 

・風邪の身を他人事のごとながめをり

『新版 北上川』の刊行に先立ち、
昨日、弊社事務所にて座談会を行いました。
事前に詩人の佐々木幹郎さんに詩をお願いしたところ、
「北上川――橋本照嵩のためのメモランダム」
という素晴らしい詩を書いてくださり、
座談会では、
佐々木さんによる詩の朗読から始まり、
『新版 北上川』の
写真に触れての印象と、
そこから生まれる「ことば」について、
まさに
「からだ」と「ことば」が行き交う、
なんともスリリングな会でありました。
につけても、
佐々木さんの「ことば」はよく分かる。
腑に落ちます。
腑に落ち、やがて落ち着き、溶けていきます。
溶けて流れてみな同じ
なわけはありません。
分かることは変わること。
差異が生じる。
日常飛び交う言葉とはちがう
「ことば」
「ことば」によって生かされるとは、
腑に落ちた「ことば」によって生じる
新しい「からだ」
を生きることの謂いです。
参加者は、
佐々木幹郎さん、装丁家の桂川潤さん、橋本照嵩さん、それとわたし。
座談会の模様は、
佐々木さんの詩とともに、
後日『図書新聞』に掲載されます。
乞うご期待!

・洟啜る我も仲間か流行風邪  野衾

飲むお米

 

・めぐり来て女人源氏に春は咲く

このごろ日本酒を
美味しくいただけるようになりましたので、
晩にはご飯を食べずに
おかずを食べ、
ご飯代わりの日本酒を少し飲むようにしています。
一日を振り返る時間が静かに流れて、
ほろ酔いで床に入る
のも気持ちよく、
夢見はあったりなかったり、
なによりも、
朝目覚めたときの体が重くなく、
スッキリしているのに驚きます。
いろいろな種類のお酒を、
少なく美味しく飲むのが一番のようです。
きのうはこれを飲みました。

・立ち止まり立ち止まり聴く春隣  野衾

コーヒーの大学院

 

・珈琲店老婆のシャツの梅花かな

神奈川新聞社に行く用事があったので、
昼の食事を早めに済ませ、
近くの「コーヒーの大学院」へ。
初めて入ってから十年は経つだろう。
看板が目に付き、
ふらりと入って飲んだコーヒーの
なんと美味しかったこと。
久しぶりに入ってみることに。
ブレンドコーヒーを頼み、
読みかけの文庫本を取り出し
数ページ読み始めるや、
八十前後だろうか、
女性二人がやおらわたしの隣に陣取った。
カレーライスとコーヒーを頼むや、
女性同士の会話が始まった。
「これ、もらってくれない」
「だめよ。値段知っているもの」
「いいじゃないの。わたし着れないんだから」
「そんな高いもの、もらえないわよ」
「そんなこと言わないでもらってよ」
「ダメよダメ」
「ダメじゃないって。いいじゃないの」
「わたしそんな高い物身に着けたことないし」
「そんなこと言わないで。箪笥の中で腐らせてしまうだけだもの」
「ダイエットしたら着ればいいじゃない」
「ダイエットなんてあなた。大病でもしなきゃ無理よ」
「ダメだって。わたしに似合うかどうかわからないし」
「絶対似合うって! それは保証する」
「そうかしら」
「そうよ。あら、カレーが来たわ」
「じゃあ、カレーを食べたら、試しに着てみようかしら」
「そうしてよ。絶対似合うはずだから」
「このカレー美味しいわ」
「あら、もう食べてるの」

・春近し横浜港の霧笛かな  野衾

鎌倉三猫物語

 

・新刊をとどけ安堵の冬の月

ソーントン不破直子先生の初めての小説、
『鎌倉三猫物語』が出来ました。
漱石先生の『吾輩は猫である』は、
まだ名前のない「吾輩」がしゃべりだしますが、
鎌倉三猫では、
小町、タマ吉、みなみ
の三匹が
順番にしゃべります。
日々の暮らしの手触り感と
猫たちの個性を、
南伸坊さんが
上手に装丁してくださいました。
茗荷谷にある事務所に
本を届け、
お茶と干し柿をいただいてきました。
もっちりとした食感の
甘過ぎない
なんとも美味なる干し柿で。
しかも、大きい!
それはともかく。
鎌倉に行くと、
三匹のかわいい猫たちに遇えるかもしれませんよ。
神社猫にも会ってみたい。

・寒月下坂に佇む男あり  野衾

詩の作り方

 

・鴨一羽波に揺られて流されず

ジャック&ベティで、
『谷川さん、詩をひとつ作ってください。』
を観てきました。
苗字だけで誰だかわかる
ところがさすが
(試しにグーグルで谷川と入力すると、
一番上に谷川岳がでてきて、
つぎが谷川俊太郎だから、スゴイ!)
ですが、
タイトルどおり、
監督の杉本信昭さんが、
谷川さんに詩の依頼をするところから話は始まります。
杉本さんは、
この映画をつくるまで、
谷川さんの詩を読んだことがなかったそうです。
映画をつくることになり、
何冊か詩集を読んだら、
まるで自分のことを言っているのではないか
と感じられる詩に遭遇し、
谷川さんに
そのことを伝え、
偉大な詩人はさすがと申し上げたら、
そんな下劣なことは言わないでくれと、
谷川さんにひどく怒られた、
なんてことを
映画のあとの舞台あいさつで
話してくれたりして、
谷川さんの詩の作り方の一端がうかがえ、
映画も面白かったけれど、
監督の肩の力の抜けた話も好かった。
映画のポスターとチラシに
谷川さんの横顔が配されていることを、
館を出てから気づき、
なんで気づかなかったかと
不思議な気がしました。

・映画観て館を出づれば春近し  野衾