いまと方向

 

・凩や風かんむり飛びにけり

西脇順三郎の全詩集から始め、
萩原朔太郎全詩集、金子光晴全詩集。
「全」というのがいい!
だってなにもかにも含め、
それで全部だから。
どれも千ページを優に超し、
大辞林なみの分厚さなれど、
なんだかよく分からぬ詩もあるにはあるが、
ゆっくり読み進むうちに、
詩に佇む「いま」に触れる
瞬間が訪れ、
しばらくは積分するその時間を
共に生きる気がし、
これはこれで、
替えがたくうれしい時間。
一冊の中にギュッと圧縮されていた時間が
ほどけ流れている、
とでもいうのか。
で、
詩人によって、
捉えている「いま」がそれぞれちがっている。
そこに触れることが嬉しいし、
楽しい。
生きる現実にあるのは未来と過去で、
現在は虚構であるけれど、
本の中、
詩の中にこそ「いま」がある。
そんなふうにも感じられ。
詩人というのは不思議な人種だと思います。
昔からほんと、
あまりおカネにならないのに、
いたわけですから。
詩人のイメージといえば…。
水族館で大群の魚が時計回りに泳いでいるのに、
一匹だけ底の砂につんのめったりし
反対方向に泳いでいる、
たとえばあんな類かもしれません。
田村隆一の本に、
たしかそんなことが書いてあったような。
大群と反対に泳ぐ魚がいて
初めて「方向」の存在に気づきます。
皆と反対に泳ぐ魚がいなければ、
そもそも「方向」に気づくことがない。
詩も詩人も面白い。

・凩や耐えて憂きこと忘れをり  野衾