日焼けした全集

 

・冬の日の公園に充つ音を聴く

わたしのふるさとの駅は井川さくら。
平成七年にできた小さな駅。
帰省するたび、
父と母が車で迎えに来てくれます。
往きはうれしく、
帰りはちょっと寂しい。
駅の待合室は広々としており、
大きな窓からは陽が燦々とふりそそいでいます。
どなたの寄贈か分かりませんが、
本棚に、
『講談社少年少女世界文学全集』がずらりと並んでいます。
箱入りの立派な本は日焼けし、
背のタイトルが白っぽく変色しています。
ここに置かれる前からそうだったかもしれません。
日本編には『古事記』なんかも入っています。
わたしは適当に一冊取り出し、
汽車の来る時刻まで、
読むのではなく、
ぱらぱらページをめくっていました。
それだけ。
弟の長女の結婚式で帰省した折り、
ただそれだけのことだったのに、
あの日焼けした『講談社少年少女世界文学全集』のことが
ふと思い出しては気にかかります。
小公子。小公女。バーネット。
わたしの知らない世界。
予感のような風が吹いてきます。
本を読まずに大人になった今、
ゆっくり、
公園の木々のぬくもりを慈しむように、
戻ることはかなわなくても、
戻ることはかなわないから、
ゆっくり静かに読んでみたいと思うのです。

・雨止んで個性華やぐ落葉かな  野衾