よるのひらがな

 

こどものころ いえに ほんがなかった
がっこうに かようようになって
ほんをよむことを おぼえた
ほんに しがみついた
いつしかほんは じんせいになった

ものに ながあり
いちたすいち
アフリカ
かまくら
れんあいのもとの せい
とろける べっこう
のまえのそらは
(おらだきゃ しらねでゃ)
しろく ぬけてあり

ほんをしってから
ほんはいろいろ せかいをひろげてくれたたけれど
どうしてもひろがらぬ せかい
があった
それは わたしの

ほんをよんでも よまなくても
おなじこと
えらいひとの しも
えらくないひとの しも
しは びょうどうで
すべてのことが

みたいなものにおもえてくる
なにもかも わたしと
かんけいないことにおもえてくる
わたしの

おとさん
おかさん
かみさん
かみさん?

ほんをはなれ
し を
はなさないで
いられるか
しを つかむか
しに つかまれるか
しを のみこむか
しに のみこまれるか
うまれるまえ
のまえ
にかえってゆく
しのうみへ
ほんをしってよかったと

てつがくのまえで
しのふちで
あしぶみしている ことば
をぬいで ねころんで
よだれたらして
かいものにあきたしょうねんのように
ほうけていたいのさ

ひらがなのあんしんと ふあん
のようなもの
しょうがいをひらがなでしかかんがえてこなかった
そうぞうのやぶれめ
しょうめつの はて
ひらがなではじまり
ひらがなでおわることばは はずかしい
はずかしくても たち
さらされながら
ひらがなは
ちんもくのあしたへ
よはまだ あけぬ
なあなあなあなあ
まあまあまあまあ
ことばだ!
いや こえだ!
(おらだきゃ しらねでゃ)
おいこしてゆく
おいこしてゆく
いま
それ
わたしは ことばをしらぬ
しのまえの ことば
ことばでない しだ