きんき喰いてぇー

 

・思い出はきんき塩焼き一関

海のサカナで一番好きなのがきんき。
川魚では鮒。
いずれも、
焼いても煮ても美味しいわけですが、
秋田の母は、
薄く塩を振って焼いてから
煮ます。
こうすることにより
焼きの香ばしさがサカナに加わり、
一段と旨みが増します。
なんでいきなりきんきかというと、
『日本の七十二候を楽しむ 旧暦のある暮らし』(東邦出版)
の今日の日をふくむ候のページに
出ていたからです。
この本、
売れてもいるようですが、
とてもいい本です。
文:白井明大(しらいあけひろ)
絵:有賀一広(あるがかずひろ)
文章が簡潔で分かりやすく、
季節のものへの深い情愛が感じられます。
絵は水彩で、
四季折々の花鳥風月を
慈しむように描いています。
わたしの句作の種本でもありまして、
うんうん唸って
それでもなんも出てこぬときは、
この本を開きなにかヒントはないかと探します。
ぱらぱらページをめくっているうちに、
ん!
となればしめたもの。
ならぬときは大変。
カーテンを開け外を眺めたり、
立ち上がって狭い部屋をうろうろしたり。
でもって最初の句。
一関の富澤さん。
あそこのきんき焼き定食というものは、
日本最高だと思います。
また行きたい!

姪の結婚式で秋田に帰ることになりました。
そのため、
来月四日五日の「よもやま日記」はお休みします。
よろしくお願いします。

・ゲラの字や肛門宮度に染み入りぬ  野衾

初恋の日

 

・歳時記を睨み句作や秋日和

今日十月三十日は「初恋の日」だそうです。
なんでかっていうと、
島崎藤村の詩「初恋」
が発表されたのが、
明治二十九年(一八九六)の今日だから。
島崎藤村にゆかりのある
長野県小諸市の中棚荘が決めたのだとか。
旅館が決めたか。
早いもん勝ち、
決めたもん勝ちの感がないでもない。
でも、まだ、
そうか、
藤村の詩「初恋」がねぇ。
今日だったのか。
と、
ほんの少しだけですが、
なにやらの感慨が湧かないこともない。
ところが、
今日はまた、
「たまごかけごはんの日」でもあるんだそうです。
ええええっ!!
平成十七年(二〇〇五)の今日、
第一回日本たまごかけごはんシンポジウム
が開催されたことに因み。
そう決めたのは、
島根県雲南市の「日本たまごかけごはん楽会」
「学会」でなく「楽会」
そうでしたか。
となると、
嫌いではなし、
晩はたまごかけごはんにするか。
痛風は大丈夫か?
一個ぐらいなら平気か?

・秋の日やヰ゛オロンてヴァイオリン?  野衾

西脇さん

 

・一行の詩を考えて秋酣

このごろは西脇順三郎の詩と詩論、エッセイ、
評伝やら西脇論まで含め、
西脇さんのものばかり読んでいます。
ポポイポポイと草木もなびく模様。
変ったところでは、
『西脇順三郎全詩引喩集成』これ凄い!
西脇さんがつくった詩に古今東西のどんな言葉が引かれ、
また一見そうと知れない字句が、
いかに自家薬籠中のものとなり、
西脇さんの詩に反映しているかを
細部にわたり
丹念に調べ上げたもの。
これなど、
遅ればせに詩を勉強したく思っている
わたしなどにとりまして、
替えがたく面白く感じられ
興奮しました。
西脇さん以外にも
こういうものがあると役に立つと思うのですが。
外国には割りとあるようです。
詩は感性で書く、
とばかりも言えなそうで。
というわけで、
ちょっとした西脇フリーク。
西脇さんは、
芭蕉にも興味を持っていたようですが、
西脇さんて、
外国へ旅した芭蕉みたい、
だんだんそんなふうにも思えてきます。
芭蕉がヨーロッパへ旅していたら、
なんて考えてると
楽しくなってきます。
奥の細道ならぬパリの細道とか。
こうなると、
エズラ・パウンド、T. S. エリオット、ジョイス、イェイツ
までのラインが近く太く
見えてき、
どんどん広がっていきそうな気配。
遅れてきた青年の個体発生は系統発生を地で行き、
せっかくだから初源の受精卵まで。
いや父母未生以前まで。欲張りか。
季節は秋。
さあ読むぞ!

・実ありて鐘鳴らずとも柿は食う  野衾

秋田さ

 

・なめこ汁ありて華やぐ夕餉かな

子どものころ、
かぞぐで秋田さ行ぐのがいぢばんの楽しみだった。
とうさん、かあさん、おどうとどいっしょに行った。
まだ自家用車が無ぐ、
汽車で。
四人がげのシートの窓際はおらどおどうと。
通路側がとうさんどかあさん。
国鉄の汽車のシートを下がら指でなで上げれば、
白い筋がでぎでおもしろがった。
何度でもやった。
まんぷくしょぐどうではラーメン。
木ノ内デパートのおぐじょうで遊んだ。
きょうはアノラックを買ってもらう。
おらは白いアノラックどバンド。
おどうとは白いアノラックどけり。
白いアノラックはめじらし!
そうやって出がげだものだった。
じいさんも、ばあさんも、いであった。
じいさん、ばあさん思えば、
なだ出でくる。
なんも、なあんも、しんぱい無がった。
んにゃ。
しんぱいはそれなりあったども…。
いまどなれば、
しんぱいまでかがやいで見える。
いまは、
くだらにゃぐはにゃども、
おどなの、
しなければいげないしんぱいが山ほど。
しんぱいごどをこなして日が暮れる。
じぇんこ、かへがねばダメだし。
じぇんこかへぐのたいへんで。
姪っ子のけっこんしぎによばれ、秋田さ帰る。
秋田さ。秋田さ。

・現実をシュルレアリスム強化され  野衾

キリコ展

 

・バス去りて路に一人虫すだく

好きなジョルジョ・デ・キリコの展覧会、
夫人の旧蔵品を中心に約百点、
その八割が日本初公開というので、
さっそく行ってまいりました。
まず。
キリコの顔ですが、
優しい目をしたハイデガーみたい。
垂れ目だし。
歯、イデ(痛)がー?
なんてあきた。
キリコキリコ。
霧子といえばフランク永井。
♪好きだか~ら とてもとてもとて~も♪
霧子のタンゴ。
どうも逸れるんシュルレアリスム。
画集で知っているだけの画がいっぱい。
これ知ってる。
これ知ってる。
これ知らない。
これも知らない。
これ知ってる。
………………
知ってるもの、
画集で見たことのあるものは
少なくありませんが、
印象はだいぶ違います。
色が素晴らしい。
色か。
形は捉えても色は真似られない。
現代の印刷技術をどんなに駆使しても、
たとえば〈噴水のあるイタリア広場〉
や〈吟遊詩人〉の
原画の色を再現できないのでしょう。
色が再現できないということは、
キリコの孤独を再現できないのでは?
色のない孤独はない。

キリコ展は十二月二十六日まで。
東京・汐留ミュージアム。
一般千円。
水曜休館(十二月三、十、十七、二十四日は開館)。

・キリコ展出でて汐留独りキリコ  野衾

虹の大和 飯島先生に

 

・寒いのでビルの饒舌果てもなし

やまとでなくTAIKA
遥かのものの連結
無限遠で交叉する
大謙は大和に通ず

生と死
二にして一

夢とうつつ
二にして一

自然と超自然
二にして一

男と女
二にして一

妻と愛人
二にして一
のわけないか

遊びと仕事
二にして一
であれば尚うれし

真面目と冗歌
二にして一?

言葉と物
二にして一への漸近線

詩と散文
二にして一

信仰と哲学
二にして一
もつと哲学を入れなさいといわれたJ・Nは詩人だつたが

聖と俗なら
二にして一
奈良の古い仏達の菊の香よ

根本と枝葉
二にして一
アスファルト上似非文化論を引き剥がす

恋と殺伐たる砂の日常楼閣
二にして一

対物一点 万物照応
初源の神秘へ
宇宙の息が劈くとき
神韻縹渺 神韻微妙
一息 いつそく
生命の機

宇宙の水溜まりを飛び越えた
北上川御堂《みどう》観音弓弭《ゆはず》の泉
ゴヤのファースト・ネーム
少女の名前は

・秋滑り五分遅れて新秋津  野衾

ちわきまゆみ

 

・秋雨やとかとんとんと染み入りぬ

ちあきなおみ、でなく、ちわきまゆみ。
わたしがこの人を知ったのは、
弊社から本を出している大嶋拓さん製作・監督・脚本・編集の
映画『火星のわが家』がきっかけ。
映画に登場する姉妹のお姉さん役でした。
その後、
というのは、
『火星のわが家』を観たあと、ということですが、
雑誌などでたまに見、
へ~あの人だ、こういう人なんか、
とかとかと意識するぐらいで、
それ以上でも烏賊でもなく。
(痛風治ってよかったぁ!)
そのちわきまゆみが夢に現れた。
数名でいっしょに旅行に行っている感じ。
途中いろいろあって省略、
ごく自然に
ちわきさんとわたしだけ二人で行動し始め、
なんとなくいい感じ。
小川が流れる谷あいでは、
ちわきさんがわたしに寄り添ってきて、
ますますいい感じで話は進み。
さらに進むと、
断崖絶壁の見晴らしのいい場所に出、
そこは崖さえ気にしなければ、
遊びの野球ぐらいならできそうな広さ。
シートを広げ寝そべっているカップルあり。
崖になっている縁には人が並び、
縁だけ髭を残して剃っている変顔の人を思い浮かべた。
そんなことはどうでもよく、
一応わたしたちも縁の方まで歩を進めると、
「ここにトルストイも来たらしいよ」
そんなことあるかよ日本に来てねーしとわが内なる声。
とその時。
キャッ! と、ちわきさん。
体を押し付けてきた。
お~びっくりしたぁ!!
どっどの心臓鳴り止まず、
二人はゆっくりその場を離れた。
それからまた歩き。
わたしの声がデカイと若者に注意され。
その若者、
ちわきさんが所持していた雑誌を目ざとく見つけ、
「ちょっと見せていただけませんか?」
雑誌に興味があるのか、
ちわきさんに興味があるのかこの野郎。
「どうぞどうぞ」気前がいい。
ちわきさん、
バッグの中から携帯電話を取り出し、
別れた仲間の一人に連絡を取っている模様。
「うん。……うん。五時か六時までには合流するから」
話は佳境に入る感じ。

・メガネ曇るセブンイレブン秋黴入  野衾