ほぼ全点フェアin東京堂書店

 

・寅さんの秋やちやらちやら御茶ノ水

神田の東京堂書店三階フロアにおいて、
春風社創業十五周年にちなみ、
ほぼ全点フェアが開催されています。
来月いっぱい。
二面の壁全面と壁手前の低い棚もつかい、
ジャンルごとに本が並べられ、
棚ざし面だしされています。
お運びいただければ幸いです。
会社を起こした頃、
「おたくの会社は、流行らない八百屋のようだね」
と冷やかされたことを考えると
隔世の感がありました。
「流行らない八百屋」とは。
そのココロは?
札だけあって品物が少ない…。
当時、
今よりずっと若かったし、
血の気も食い気も多い年頃でしたから、
チクショー今に見ておれ! きっと、きっと、
なんて力んだものですが、
いま考えれば、
なんであんなに悔しかったのかが不思議。
むしろ、
「流行らない八百屋」
そのココロは、
札だけあって品物が少ない…。
座ブトン一枚
というところではなかったでしょうか。
会社創業の時期というのは、
出版社はもちろん
どの業種であっても、
「流行らない八百屋」を経験しなければならないはずですから。
昨日、
フェアの設えを見、
担当の方のきめの細かい仕事ぶりに感動しました。
創業以来一丸となって「いい本づくり」
を目指してき、
いまもその気持ちに変りはなく、
今こうして、
老舗の著明な書店で
フェアをしていただけるようになり
まことにありがたく思います。
他方、
妙な感覚に襲われもしました。
たしかに
欣喜雀躍ものではありますけれども、
うれしいココロを抑え
パッと見渡したとき、
ほかの棚より劣っていると感じない。
(それだけ東京堂の棚ぞろえがどの棚も
きめ細かくできていることの証でもあるでしょう)
幾重にもうれしくはありながら、
誤解を怖れずに言えば
「特別な感じ」が無いとでもいうのか。
つらつら慮るに、
東京堂の棚に並ぶ本たちは、
本づくりにかける各出版社の思いが
ていねいに汲み取られ、
ニコニコ並んでお客さんを待っている舞っている…。
その意味でウチだけ特別なことはない、
それでいいと思いました。
そういう棚に
ウチの本も置かせてもらっている。
むしろこれからは、
ココロを際だたせるよりも、
すぐれた先人に学び、
ほかから抜き出る方向でなく、
ほかのいいところを謙虚に習い、
真似て、
それを世に送り出す本に
溶け込ませつつ、
歴代の出版社の仲間に入れてもらい、
少しでも伍していければ
という願いのほうが強くはたらいた、
のだったかもしれません。
今月二十日には文藝春秋前社長との対談が行われます。
胸を借りるつもりで臨もうと思います。
こちらもどうぞお運びくださいませ。

・鰯雲ひとに告げたきこともある  野衾