左手にケータイ右手に珍

 

・くさむらや四次元のみち虫すだく

打ち合わせのため大森へ。
約束の時間より少し早く着き、
小用を足しに
駅トイレに向かう。
六、七段の階段を上ったところに白い便器が並んでいる。
奥から二番目の便器の前に立ち、
身を捩じらせていると、
わたしの後から入って来た
若いビジネスマン風の男性が、
男子用トイレなので言わなくても男性なのだが、
若いので、
ササッと珍@宝を出し、
液体は
すぐにきれいな円弧をえがいて迸った。
わたしの体の奥から
尿意のマグマがようやく盛り上がりを見せた頃、
若きビジネスマンのケータイが鳴った。
ビジネスマン、
あわてて左手でケータイを操作し
電話に出る。
お見事!
「はい。はい。○○商事の▲■です。はい。はい。すみません。
少々遅れまして。いま大森駅に着いたばっかりで。
はい。トイレに居るものですから。はい。
すぐに参ります。ええ。ええ。……」
その緊迫した電話の最中も、
パンツは尻の中ほどまで下ろされ、
珍@宝は右手指先によりしっかり把握されていた。
笑うに笑えない。
ビジネスマンだ。
パンツとズボンをササッと元通りにし、
棚から鞄を下ろして便器を離れる。
わたしの間欠泉的小用は
いよいよもってそろそろ終盤を迎え、
体と臓器に感謝しつつ
便器を離れる仕儀となった。

・秋雨や吸ふて濃くなる深くなる  野衾