奇跡の写真集

 

・耳鳴りと思へば虫か藪のなか

写真集『石巻 2011.3.27~2014.5.29』
の見本本が出来上がってきました。
今週末から来週にかけて書店に届くでしょう。
B5判変形サイズ・ソフトカバー・220ページ、
写真点数総170カット。
定価(本体4500円+税)
東日本大震災後、
石巻出身の写真家・橋本照嵩さんが三年間
延べ36回ふるさと石巻に通いつめ
撮り続けた写真群から選び一冊にしたものです。
きのうたまたまテレビをつけたら、
震災後三年半経ったこの時期の特集番組を
NHKが放送しており、
そのなかで、
母親を震災で亡くした少女が、
今年の運動会で自ら立候補し壇上に立ち、
いまの思いと今後に向けての決意表明をしていました。
そこで、
目に見えるものだけでなく、
目に見えないものを
ことばにしていきたい旨の発言があり、
印象深く聞きました。
写真集『石巻 2011.3.27~2014.5.29』には、
まさしく、
目に見えないものが写っています。
例えば小学校の入学式に参列した若い父親の両手に、
震災で亡くなった妻の写真がしっかり握られていますが、
その顔は生きてこちらを向いています。
床が剥がれ、だれもいない大川小学校の
開いた窓に揺れるカーテンは
遠くからの通信を静かに物語っているようです。
その意味で、
これはまさに“奇跡の写真集”です。
これまで、
この写真集が出来るまで、
また出来上がった写真集を見たあとも、
自身が写した写真でありながら、
橋本さんの口から何度も
「撮らせてもらった」
のことばが発せられました。
わたしも
この写真集を作らせてもらいました。
何十回、何百回でもページを開いて見られるように、
アジロ綴じではなく、
かがり綴じにしたのも意味があってのことです。
本を綴じるのに用いる接着剤も長く経つと割れるので。
皆さま、
どうぞ手にとって見てください。
すばらしい写真集です。

・秋風や記憶の意味を聴いてをり  野衾

コンビ

 

・くるくるり落葉地上に着きにけり

今月20日、
神田神保町にある東京堂書店での
トークイベントでは、
文藝春秋前社長の平尾隆弘さんと
本についていろいろ話すことになっていますが、
編集者として手がけた中から三冊の
思い出深い本を紹介するコーナーもあります。
そのうちの一冊、
平尾さんが取り上げる
三浦佑之著『口語訳 古事記』を読んでいたら、
垢から神さまが生まれる記述があり、
注に参照として昔話の
コンビ(垢)太郎のことが記されていました。
ふるさと秋田をでてから
とんと聞かなくなりましたが、
子どものころはコンビというこの言葉、
よく聞いた気がします。
乾いて側壁に張り付き
なかなか剥がれない垢状のものを、
秋田では、
すくなくとも我が井川町では、
コンビと言っていた。
炊いたご飯が炊飯器に張り付くと、
「コンビ(あるいはコビ)ちだ(着いた)」
尾篭な話で恐縮ですが、
糞コンビもある。
説明しなくてもだいたい
分かっていただけると思うのですが、
要するにクソのコンビ。
怒り心頭、頭にきて、
ひとを罵倒するときなどに、
このクソコンビー!!と叫ぶ
と、
これはもうこれ以上ないぐらいの罵倒言葉なわけです。
なので美奈さん、
いや皆さん、
あまりの理不尽さに頭にきたら、
このクソコンビー!!
と叫んでみてはいかがでしょう。

・駅ホーム客に掃はる蟷螂かな  野衾

風邪引いた?!

 

・天麩羅屋の軒先の虫の声

夏バテなのか風邪でも引いたのか、
突如弊社ホームページが開かなくなり、
アクセスしてくださった方にご迷惑をおかけしました。
すみませんでした。
データベースのトラブルなのか、
なんなのか、
機械音痴のわたしにはとんと分かりませんで、
多聞くんが直してくれました。
多聞くんは矢萩多聞さんで、
今や押しも押されぬブック・デザイナー。
近著『偶然の装丁家』も好評裡に推移し短期間で増刷、
身辺ますます多事のようであり、
多聞くんと親しげに呼ぶのは
ちょっとはばかられる気味ですが、
しかし矢萩さん
というのも少し他人行儀な気がし、
やはり多聞くん
と言ったり書いたりするほうが、
わたしは落ち着くのです。
多聞くんは画家でブック・デザイナーですが、
弊社のホームページをつくってくれている
大事なウェブ・デザイナーでもあります。
ちょこちょこっと、
といってもわたしは番外、
全然ダメですけれど、
直せるうちはいいのですが、
今回のようなトラブルがありますと、
多聞くんにお願いすることになり、
ありがたいことです。
さてホームページが復旧したところで
さっそくのご案内になりますが、
今月20日、
神田神保町にある東京堂書店での
トークイベントはあと少し席があるようです。
東京堂書店はとても雰囲気のいい、
書店らしい書店さんで
本好きにはたまらない空間。
予約が必要ですが、
土曜日、
東京堂書店の棚を楽しみがてら、
よろしければお出かけになりませんか。
詳しくはコチラをご覧ください。

・はふはふと蝉のむくろの軽きかな  野衾

トークイベントのご案内

 

・秋の風こころギリシャを指してをり

ようやく涼しくなってまいりました。
さて今月20日、
神田神保町にある東京堂書店6階ホールにて
トークイベントが開催されます。
テーマは、本を
「読む、書く、出版する。」
ことし6月まで
文藝春秋の社長をしておられた平尾隆弘さんと
本についていろいろ話をします。
司会は、
学習院大学文学部教授の中条省平さん。
きのうは、
平尾さんと事前の打ち合わせ。
つい“平尾社長”とお呼びしたくなるのですが、
社内でも平尾さんと呼ばれていたらしく、
まして今は社長ではないということで、
終始“平尾さん”で通させていただきました。
文藝春秋の社風もあるとは思いますが、
平尾さんのお人柄が強く作用していると感じました。
事前の打ち合わせながら、
ひとりで伺うのがもったいなく、
もうもう
むちゃくちゃ面白かった!
2時間があっという間。
とりわけ平尾さんが文藝春秋を受験する際のエピソードは、
ほんまかいなと訝られるぐらい。
なので、
いまのそのお話ぜひぜひ、
20日の日も必ずしてくださいとお願いしました。
月並みな言い方で恐縮ですが、
時代は変わっても変わらぬものがあり、
今のこの時代であれば
なおのこと、
かたい門を開くのに何が大事か、
身に沁みたエピソードでありました。
1ドリンク付きで800円。
どうぞ皆様、お誘いあわせのうえお運びくださいませ。
予約が必要になります。
くわしくはコチラをご覧ください。

・トラフィックの賑はひやぽうと秋  野衾

黄金の風

 

・いたましきゆえに我あり秋の風

ここまで来た
丘に上がつていた
少年は
新鮮な風に揺らぐ稲を 視


視飽きることをしらな

飯島耕一先生の
「田園に異神あり 西脇順三郎の詩」
を読む

そこにこうあつた
「この詩人は「黄金」という語を使うことのできる詩人である。」

たしかに
西脇順三郎の詩には「黄金」の語がよくでてくる
ギリシャ的叙情でもあるのか
しかし
ギリシャのまえに
新潟県北魚沼郡小千谷町があつたはず
西脇本人は
いや東京日本であるというかもしれぬが

紺碧の海から
遥かの地中海から
吹いてきたかもしれぬ
黄金の風は
静かに吹いて
いる

恋するひと

恋したきひと

かどの真一君の生垣に沿つて
もうそこまで来ていた
永遠
ていう名の
または
距離=ディスタンス
ことばは一人のためにある

・雨あがる山の上にも落葉かな  野衾