天才カルロス・レイガダス

 

・魚眼もて夢をうつつの野分かな

カルロス・レイガダスの『闇のあとの光』を観た。
メキシコのとある村。
野原で雷が轟き、牛が草を食べている。
馬がのんびり歩いている。
犬が駆け回る。
可愛い女の子が無邪気にはしゃいでいる。
演技していると思えない。
監督の娘だそうだ。
だろう。
始まりから不穏な空気が充ち満ち、
強烈強力な磁場が形成される。
ああ、
これは、動く、写真集!!
一瞬も目が話せない。
最初の野原でのシーンから、
掘っ立て小屋の依存症の会での告白セラピー(?)、ラグビー競技場の控え室、
豪華レストランでの会食、サウナでの乱交、海浜、倦怠期夫婦の会話、
泥棒、ピストル、ニール・ヤングの歌を所望する死の前の夫、
ピアノに向かう妻、家族の和解、等々と。
一つ一つのシーンが美しく、印象深く、見入ってしまう。
魅入ってしまう。
自然と人間が織り成すもろもろの現象が、
いまここで生起している。

わたくしといふ現象は
仮定された有機交流電燈の
ひとつの青い照明です
(あらゆる透明な幽霊の複合体)
風景やみんなといつしよに
せはしくせはしく明滅しながら
いかにもたしかにともりつづける
因果交流電燈の
ひとつの青い照明です
(ひかりはたもち その電燈は失はれ)
(宮沢賢治「春と修羅」より)

この映画は映画ではあるけれど、
動く写真集であり、
死と詩の映画でもある。
何度でも見たくなる。
体感し方言をしゃべりたくなる。
土にまみれ疼き勃起し。
おもやみ、やばつぃ、さしね、ぎぢごます。
赤い幽霊と見えたのは、
角が生えているしメキシコの話だから悪魔なのだろう。
「メキシコは世界でもっとも頻繁に首が切断されている国」と監督がいう。
全編間断無き性欲情的超絶実感エロ映画!!

・盂蘭盆会ヘクトパスカル不穏なり  野衾