飯島先生からの手紙

 

・夏の朝別れしひとの夢見たり

親しくさせていただいていた
飯島耕一先生が亡くなられて九か月が経った。
安原顯さんと中条省平さんが定期講師を務める創作学校で
お目にかかったのが最初だから、
二十一年前になる。
一度だけの講演を聴講し手紙をお送りした。
ご返信に添えられ私家本の
『バルザック随想』をいただいた。
有難かった。
六年後、
春風社を起こしてから、
PR誌「春風倶楽部」に原稿を寄せていただき、
さらに
『ヨコハマ ヨコスカ 幕末 パリ』を
弊社から出させていただいた。
その後、
新井奥邃に関心を持ってくださり、
数篇の論考を雑誌に発表されていた。
その都度、記述に誤りがないか手紙を寄せられた。
ご著書を十冊ほど先生からいただいたが、
このごろ詩への興味がわいてきて、
先生からいただいた本を
棚から出し改めて読んでいる。
そのうちのある本に、
原稿用紙に綴られた手紙が入ってい、
文章の最後に、
ドイツ文学者の種村季弘氏のことが記されている。
その言葉と字配りから先生の口調が懐かしく思い出される。
親しい友の死から九年間、
先生は寂しい思いをされていたのだろう。
昨日、
社員のY君のご実家から会社宛に桃が送られてきた。
Y君は岡山出身。
桃を見、
同じ岡山出身の飯島先生を思い出した。

・蝉しぐれ頭上になして降り止まず  野衾