圧力婆

 

・むしやくしやのこころ鎮めむ本を買ふ

休日出勤した折、
昼、写真家の橋本さんと蕎麦を食べに行った。
入ったときは私たち二人だけだったが、
だんだんと客が増え、
おやおやと思っていると、
五、六人の初老の女性たちが
どやどや
なだれ込むように店に入ってき、
ぽつぽつ空いている席に二人が座り、
後の数名は
立って食事中の客のほうをちらちら見ている。
圧力をかける比叡山の僧を思い出す。
見たことはないが、
歴史の教科書で習った。
だんだん腹が立ってくるのが分かる。
大事な仕事の最中なので、
こんな糞婆どものために怒りを爆発させ、
エネルギーをつかうことは
いかにも勿体無い。
落ち着け、落ち着け、落ち着け…。
念仏を唱えるように自分に言い聞かせ、
ゆっくり、
さっさと蕎麦つゆを飲み、
席を立つ。
勘定を済ませ
憮然として出口へ向かうや、
圧力婆どもが、
「すみませんねえ、急がせたみたいで」
「ごめんなさいね」
「ありがとうございます」
「すみません。どうも」
慇懃無礼とはまさにこのこと。
ありがたいなどと
毛ほども思っていないくせしやがって
この糞婆ども!
胃液にまみれた蕎麦ゲロを吐き出し
いけ好かない婆どもの顔に浴びせたかった。

・一生の本は揃つた読むだけだ  野衾