読んだ本

 

・夏近し見知らぬ街を歩みたり

朝からかかると分厚くなければ二冊は読める。
小野十三郎『現代詩手帖』(創元社)、
辻征夫『詩の話をしよう』(ミッドナイト・プレス)
上の一冊は橋本さんに返し、
後の一冊は、
会社の机の下に置いてあるダンボール箱につめ、
秋田へ送ることになります。
ダンボール箱を一つ用意してあり、
読み終えた自分の本を社員に貸すか
あげるかする以外は
そこに入れる。
缶に雨水が溜まっていく風で、
箱いっぱいになったら秋田行き。
秋田では、
正月、五月、八月、
今のところ数日間の滞在ですが、
仕事を忘れ(られないこと間々あり)
書棚から適当に、
かつて読んだ本を引き抜き、
畳の上でぱらぱら
頁をめくるのも楽しく、
いずれどっかり腰をすえ、
胡坐をかいたり
寝転んだりして
読む日も来るでしょう。
同じ本でも
横浜で読むのと秋田で読むのとでは、
また味わいが違います。
本の中身が変るわけはないから、
手に取るわたしの側の問題なのでしょう。
総じて、
秋田で本を読んでいると眠くなる。

・灯り消しただ瞬きの夏の夜  野衾

顔は忘れない

 

・夏の夜や地獄極楽ヘルダーリン

小さい頃から物忘れがひどく、
傘などこれまで何十本忘れたか分かりません。
また忘れたか。
その度に自己嫌悪に陥ります。
物は忘れ、
名は忘れるのに、
人の顔は忘れない。
それは自信がある。
どこかで見たことがあるとなれば、
絶対にどこかで見ているはずなのです。
道で挨拶し、
同行の専務イシバシから、
「いまのだれ?」と訊かれることもある。
「ビルの掃除をしてくれているおばさんだよ」
「へ~。よく分かったわね」
私服姿のおばさんに初めて会っても、
顔を忘れない。
ああ、あそこで会ったのだ、
となれば
挨拶もできる。
が、
さてどこでだったか、
となると非常に都合が悪い。
じっとその人の顔を見て不審がられることも間々ある。
昨日、
野毛に下りる坂の途中のカレー屋で、
一人カレーを食べていたとき、
ななめ向かいの女性の顔は
きっとどこかで見たことがあった。
『秘密のケンミンSHOW』のドラマに登場する
東はるみに似ているので忘れないのだ。
はるみぃ~、の
はるみだ。
が、
どうしても思い出せない。
いけないいけないと思いつつ、
疑問が解けないから、
ついつい見てしまう。
不審がられたかもしれない。

・鳴かずして季節の前を蝉が飛ぶ  野衾

ふるさと社

 

・南武線府中本町武蔵野線

ふるさとは何かと気になるもの。
生まれた土地がふるさとで、
会社や人は
ふるさととは呼びませんが、
以前そこにいて身を添わせた経験が、
生まれ故郷でなくても、
古巣や人を懐かしく思い出させるのかもしれません。
昨日、
仕事で南武線の電車に乗っていて、
以前勤めていたTくんは、
この辺に住んでいたのじゃなかったかな、
違うかな、
と、
ふとTくんのことを思い出しました。
たまにメールが来ます。
「読んでいますよー!」なんて
声高に言うTくんではありませんが、
どうも、
ツイッターやブログを読んでくれているらしい。
文面から読み取れます。
そうか、
気にしてくれているのか
と嬉しくなります。

・乗り換えをやっと覚えた電車旅  野衾

キャラメルクラシック

 

・児に戻るコンビニ前の西瓜かな

ハーゲンダッツのクリスピーサンド『キャラメルクラシック』、
わたくしこのごろこれに嵌っております。
本年六月九日新発売。
ニュースリリースによれば、
「甘さと苦みのバランスが絶妙なキャラメルアイスクリームに、
ビターでキレのあるキャラメルコーティングを組み合わせ、
サクサクッとしたウエハースでサンドしたアイスクリーム」
というわけでありまして、
ほとんど発売と同時にわたしの口中に入り、
以来しばしば、
一日の疲れを癒す好物となり現在に至っています。
昨日、
写真家にして畏友の橋本照嵩さんに
『キャラメルクラシック』を紹介、説明し、
二つ買って一個を橋本さんに。
橋本さん、
大胆に一口サクッと。
「ん!」
「ん?」
「うまいっ!」
「でしょ!」
いやぁ、
ほんとに美味いんだなこれが。
ただ一つ問題がありまして、
それは、
ウエハースがあまりにサクサクッとしており、
気をつけないと、
ノドチンコに
ウエハースの破片が貼りつき噎せること。
ふつうにゆっくり食べる分には問題ありません。
発売になって最初食べたとき、
あまりの美味しさに
夢中になり過ぎたのがいけませんでした。
それぐらい美味い!!

・買い食いはハーゲンダッツのアイスかな  野衾

歯磨きセット

 

・倫子見て倫理揺るがず夏日かな

弊社の専務イシバシが本を出します。
A5判上製150ページのエッセイ集、
定価1300円(本体)。
南伸坊さんが可愛い装丁をしてくださいました。
心理学者、精神分析学者の岸田秀さんが
推薦文を寄せてくださいました。
タイトルは『人生の請求書』。
請求書書きが趣味のイシバシにこれほど相応しいタイトルはない。
さて、きのうのことです。
午前10時に神奈川新聞社文化部の方が、
イシバシを取材にきてくれることになっていました。
前の会社から数えて、
わたしはイシバシと四半世紀のつきあい。
イシバシ決して口には出さねど、
インタビューを受けるということで、
相当緊張しているなとは思っておりました。
朝、出社すると
案の定、
イシバシ自分の机に向かい
ちょこなんと鎮座ましましていた。
ふむ。
だいぶ緊張しておるな。
約束の時刻に神奈川新聞社の方がお見えになり、
イシバシと木のテーブルに向き合い、
インタビュー開始。
前さばきでわたしがイシバシを紹介し、
あとは本人にまかせた。
顔写真を撮られ、インタビューは無事終了。
昼となり、
イシバシと食事に向かった。
道道、彼女が話すことには、
朝、万が一電車が遅れては約束の時間に間に合わぬと思い、
相当早くに千葉の自宅を出た。
ふだんの日とリズムが違うせいか、
なんか変だ、なんか変だ、なんか変だと感じながら…。
イシバシ、ハッと気づく。
歯ぁ磨いてねーっ!!
途中のコンビニで歯磨きセットを購入。
やがて会社に到着、
自慢の白い歯を念入りに磨く。
白い歯っていいな~♪
準備万端、人生初のインタビューに臨んだのであった。

・夏風邪の体温ほどの気温かな  野衾

かくしごと

 

・我が胸は台風行くも荒れ模様

ないものねだりは やめにして
かんがえてもむだなことは すておいて でも
よをはかなむなんて よしな
くよくよするのも にあわない
しぬことよりも すこしは
ましなことをかんがえよ たとえばだけど
しをよめ よんだら しをかけ
よこしまな おもいとうさは どぶにすてて

……………

試しに作ってみました。
アクロスティックというそうです。
日本語では、折句。
なんか楽しい!

・源氏読む日々の車中の野分かな  野衾

母の誕生日

 

・台風で帽子吹っ飛ぶ真昼どき

きのうは母の誕生日でした。
母の誕生日は
奇しくも弟の誕生日でもあるので、
記念日が重なり、
したがって
物忘れのひどいわたしなのに、
今のところ忘却の危険を免れています。
朝、母に電話を入れました。
ぷるるー、ぷるるーと何度かの呼び出し音が鳴りまして、
やがて、かちゃ。
電話に出たのは母でした。
だいたい母が出るのです。
気恥ずかしさを堪え、
「誕生日おめでとう」と告げるや、
電話口の声が急に明るくなり、
まるで恋人から
プレゼントでももらったときのように、
はしゃいでいるのが
こちらに伝わってきます。
そんなに喜んでもらえるか…。
ありがたいことです。
きのうは仕事で遠出しましたが、
一日気持ちよく過ごせたのは、
訪問した装丁家の方の仕事ぶりに
感動したことが大きな理由ですが、
朝の電話一本も
少なからずそのことに与っていたと思われます。

・天気図にひねくれ蛇の野分かな  野衾