写真集『石巻』進行中

 

・梅雨晴れて一葉しずくの光りあり

2011年3月27日から2014年5月29日までの三年間、
写真家の橋本照嵩さんは
石巻を撮りつづけた。
石巻は橋本さんのふるさと。
この三週にわたって土日をつかい
約二万カットのラッシュを見た。
橋本さん、社のKさん、武家屋敷、
わたしの四人でパソコン画面に向かいながら、
一枚の写真に釘付けになったり、
目頭を熱くしたり、
思わず大笑いしたりと、
こんなに楽しい編集はめったにあるものでない。
体は疲れているはずなのに、
越えて元気になっている自分に気づく。
二万カットのなかから
三百カットをピックアップ。
編集は頭でもするものだけれど、
橋本さんの写真を編集するには、
体が、無意識がはたらいていないといけない気がする。
なぜなら、
橋本さんの写真には
意識下の無意識が写っていると思うから。
それはまた橋本さん自身が
無意識を開放しつつ
シャッターを切っているからだろう。
たとえばしばしば現れる公園の松。
龍のかたちによく似ている。
震災の被害に遭い枯れてしまった松を、
橋本さんは何度も何度も足を運んで撮っている。
ラッシュを見ながら、
自分でも、
また撮ってるねー、なんて驚いている。
まるで他人事みたい。
撮っているというよりも
撮らされているのかもしれない。
幼子を亡くした母がチェックのシャツを着て立っている。
一年後、
追悼の会に赴いた橋本さんが撮った写真の中に、
見覚えのある女性が写っていた。
ひょっとして一年前の若い母親?
前の写真に比べ表情が少し和らいでいるか。
チェックのズボンを穿いている。
この人はきっとチェック柄が好きなのだ。
事ほど左様に、
見れば見るほどいろんなことに気づかされる。
祈りの深さ、激しさ、厳しさも。
わたしも最後まで開放のまま、
写真集の形にしたい。

・梅雨なれば夢も梅雨にて泣きにけり  野衾