Ⅰくん

 

・梅雨の朝バナナとたっぷりヨーグルト

高校二年のとき、
同じクラスにⅠくんがいた。
髪を肩まで伸ばし、
上は学生服、下はジーンズ、
(服装なんでもOKな学校だったので、
Ⅰくんだけでなく、
当時、そのスタイルで登校する生徒が多かった)
痩せてしなやかで、
鞭のようなⅠくんは、
雰囲気が、若いときの沢田研二にちょっと似ていた。
遊び人風のⅠくんはよく学校を休んだ。
喫茶店に入り浸っているだとか、
年上の女性と付き合っているという噂を耳にした。
真偽のほどは分からないが、
どちらでもよく、
とくに興味はなかった。
校舎の裏で煙草を吸った数名が停学を食らったとき、
Ⅰくんもその中にいた。
わたしとは住む世界が違う気がし、
大人びたⅠくんを仰ぎ見ていた具合で、
同じクラスでありながら、
わたしは一度もⅠくんと話したことがない。
勉強しているふうはないのに、
テストでは常に上位をキープし、
とくに世界史はいつも満点に近かったはず。
早稲田大学の政治経済学部に現役合格。
その後、
とんとⅠくんの噂を聞かなかったが、
陸上部でいっしょだった友人から先だって、
ずいぶん前にⅠくんが亡くなっており、
それも自死の可能性があると聞いた。
接点はなかったけれど、
学ランにジーンズ姿のⅠくんがときどき目に浮かぶ。

・六月を椅子に胡坐の読書かな  野衾