山本直樹「ベスト・ワークス。」

 

・なんといふ空のむかふの五月かな

『夕方のおともだち』につづき、
山本直樹の漫画
『明日(あした)また電話するよ』『世界最後の日々』
を読んだ。
これまで描いた短編作品からの自選集とのこと。
セックス、自慰、ヘンタイ的プレー満載。
線がきれい、画がきれい。
また、あ、そういうところ
興奮するんだよなぁと
いう辺りがちゃんときちんと描かれており、
エロくてスケベで性欲情する。
にもかかわらず、
ページに漂う空気感が
それと言い切っただけではもったいない。
エロはエロなのだが…。
意味がありそで無さそうな
アワアワした感じが心地よい。
たとえば夏休み、
蝉がみんみんみんみんみんみん、
溢れんばかりに鳴いている作品「泳ぐ」を読むうちに、
かつて性欲情した、
夏の興奮がありありと呼び覚まされた。
読んでいる今ここに無意識の風景がひろがる。
エロなのに、
行為そのものもアワアワとし、
周りの景色はシーンとしている。
どこかからだれかに見られている感じ。
そうそうそう、合点がいき、
宙ぶらりんの心もとなの悦に入る。
と、
感想を書き始めてみるものの、
書いたすぐあとから
洩れてこぼれていくことの方が多い気がしてしまう。
むしろそちらに静かな感動がありそうだ。
なので再読の本棚に置くことにした。
余韻を愉しみ、
カッコいいなと思いつつ一編を読み終えると、
各編の最後に短いコメントがあって、
たとえば、
「最後のコマは渋谷のなに口だっけ? モアイのある方。
セリフは中原中也のパクリ。」(「コールド」)
とブンガクしてもいる。
この作者、
漫画はもちろん、きっと本を相当読んでいる。
小説でも映画でも
下世話のウソを剥ぎ
また暴き、
巧みになされる性描写に触れると、
これは凄い!
て思わされますが、
この山本直樹て人は凄い!
師匠安原顯いうところの、
表現行為の猛毒に触れる気もする。
いやこの毒は、
むしろゆっくりと効きはじめ、
好きな韓国映画『風の丘を越えて』の
ソンファの光を奪ったブシのようでもあり、
この三冊、
性欲情の傑作群と感じられた。
鈴木成一デザイン室の装丁も素晴らしく。
『明日(あした)また電話するよ』の巻末付録に、
「山本直樹の歴代ハマリモノ集成」があるが、
その中で、
田中小実昌の本にハマったというのも嬉しい!
「なんにもなさ。なんにもないということを語るということ。
かたやエロとセンチメンタル。」
そうそう。
エロもセンチメンタルも毒なのだ。
『ポロポロ』最高です。
ところで性欲情は、
アラーキーこと荒木経惟さんのパクリです。

・新緑や風の起こりてささやきつ  野衾