ヘラジカの贈り物

 

・言葉無きとき重なりて春愁ふ

子どものころ、
家の前で
父と近所の男たちが豚を解体していたことがあった。
ウチで飼っていた豚で、
解体には祖父も加わっていたと思う。
電気で豚を殺したあと、
腹を裂くと
煮立った鍋の蓋を開けたときのように、
もわっと生臭い匂いが立ち上った。
男たちに解体された後、
肉はきれいに小分けにされ、
子どもだったわたしは近所に配りに行った。
おカネをもらった。
夜になって、
大鍋で豚の肉を煮、
骨付きの肉にかぶりついた。
湯気がもうもうと立ち上るなか、
うまいうまいと言って食べたことを覚えている。
手についた脂がなかなかとれず、
新聞紙をくしゃくしゃにして手を拭った。
その後、
宮沢賢治の『フランドン農学校の豚』を読み、
そこには屠殺される豚の気持ちが書いてあったけれど、
読んでしばらく豚肉が食べれなくなった
という話も聞いたけれど、
わたしはそんなことはなかった…。
さて、
近頃弊社から
『ヘラジカの贈り物』という本を出版しました。
サブタイトルに「北方狩猟民カスカと動物の自然誌」
とあります。
著者は文化人類学者の山口未花子さん。
北米インディアンの古老を訪ね
単身弟子入りし、
いっしょに暮らした記録です。
その山口さんに
「ほぼ日刊イトイ新聞」の奥野さんがインタビューしてくださり、
すてきな記事になりました。
すでにツイッターで案内しているので、
ご覧になっている方もあると思いますが、
まだの方はぜひ。
山口さんの半生も垣間見られとても面白いです。
このインタビューで
わたしが個人的に最も感動したのは、
「わたし、ちいさいころから
動物のこと、本当に大好きだったんですけど、
「動物を食べる」ことについては
なんというか……抵抗がなかった」という山口さんの発言。
すごい! って思いました。
この感覚に正直であることが山口さんを
カナダの先住民「カスカ」の人たちに向かわせた
とも言えるのでは、と思いました。
記事はコチラです。
インタビュー記事を読み、
ふだん眠っているのか眠らされているのか、
そんな風になっている細胞が
ぷちぷち目覚めてくるようでもありました。

・巻を閉じ春に似合ひのバルザック  野衾