猫をさがして

 

・ぽかぽかの猫を追いかけ垣根越し

猫の写真が必要になり、
携帯電話で撮った写真のデータを見てみたら、
一枚もありません。
さて。
ここは猫が我が物顔に闊歩する山なので、
いつもより早めに家を出、
猫が居そうなところを物色しながら
ゆっくり坂を下りました。
ところが、
こういう時にかぎって、
猫は一匹もいません。
諦めきれずに、
交差点前にある公園に入り、
猫は居ないか猫は居ないか…。
と、
あ。
白猫が垣根越しに歩いていく。
それっ。
追いかけたのですが、
屋敷に至る細道を駆け抜け、
玄関先にしゃがんでこちらを睨んでいる。
どうもいけません。
いつもなら、
あっちにもこっちにも、
またかと思うほど現れるのに、
居ないときは居ないものです。
今日も早めに家を出てさがすつもり。

・ふるさとの山に抱かれて桜かな  野衾

『中島のてっちゃ』

 

・春の山烟りて猿の心かな

秋田に無明舎という出版社がある。
春風社を起こす前から、
また起こしてからも、
いつも心に留め、
社長の安倍甲(あべ・はじめ)氏が書いた
『力いっぱい地方出版』
『田んぼの隣で本づくり』
などを読んで参考にし、
舎主のブログを読むことを日課にしてきた。
無明舎は、
社長の安倍さん
(本名は安倍甲と書いて、あべ・はじめだが、
あんばいこうで通っているようだ)が
秋田大学在学中に起こした、
「古書と学習塾と企画の『無明舎』」が
そもそもの始まり。
舎のホームページに記されている。
その後、
秋田の放浪芸人「中島のてっちゃ」こと
工藤鉄治の半生を紹介する
『中島のてっちゃ』の執筆・刊行を機に、
出版業に転じたと。
その『中島のてっちゃ』、
読んでみたいとかねがね思っていたが
すでに絶版になっており、
願い叶わなかったのだけれど、
このごろどうしても読みたくなり、
ネットで検索したら、
古書で一冊だけ出ているではないか!
アマゾンさまさまさっそく購入。
「市長の名を知らずとも、
中島のてっちゃの名を知らぬものは秋田市民にあらず」
と言われたひとの一代記!
面白くないわけがない。
若さと真摯さとみずみずしさが行間に息づき、
ぐいぐい読ませる。
貪るように一気に読了。
面白かった。
無明舎の最初の本がこれだったかあ!
いろんなことを思い考え感慨に耽りました。
中島のてっちゃがよく通ったという「まんぷく食堂」には、
子どものころ、
父と母と弟といっしょに秋田市へでると、
必ず、
ではなかっただろうが、
たびたび入ったと記憶している。
弟が「中華とラーメン!」を注文したと、
その後親戚内で話題になったのも
その食堂でのことではなかったか。
ところで、
中島のてっちゃ、
本の中に写真がけっこう入っていて、
あっと驚いた。
根本敬のマンガ『生きる』に登場する
村田藤吉と吉田佐吉を彷彿させるからだ。
ひょっとして村田吉田のモデルか?
そんなこともあるまいと思うのだが、
いやいやわからないゾ。
長靴履きの風貌だけでなく、言葉づかいもなんとなく
似ている。
中島のてっちゃ言うところの「巡査なば、何ンともなねな」、
吉田が言うところの「さすけねな」と、
「ねな」でもって韻を踏んでるっていうか、
同じだもの。
まその、因果っちゅうか。
というようなわけで、
念願かなった『中島のてっちゃ』大変面白かったです。

・急坂を上り下りの桜かな  野衾

猫でなく

 

・入学を待ちて華やぐ四月かな

朝の四時過ぎ、
ハーフサイズの毛布を腰に巻き
本を読んでいたら、
ベランダの向こうからヒョイヒョイヒョイ。
窓に近づき、
くるり! 音もなく。
そしてヒョイヒョイヒョイヒョイ。
ベランダの仕切り板をくぐって闇にドロン。
はじめ猫かと思いました。
ここは猫山、しょっちゅう猫が通ります。
ところが目の前に現れた瞬間から、
どうも動きが猫でない!
オーラがちがう!
顔がちがう!
なんかとっても野生的!
すばしっこい!
タヌキ?
イタチ?
台湾リス?
ハクビシン?
ふむ。
こういうときは、ネットで画像検索。
あ!
こ、こ、これは。
てか。
そんなに驚くこともありませんが、
どうやらハクビシン。
みたい。
ああびっくり。
眼が覚めた。

・鎌倉の時を重ねる四月かな  野衾

読売書評欄

 

・朝ひやり夕に汗する四月かな

ヘラジカの贈り物 北方狩猟民カスカと動物の自然誌
が今度の日曜日(四月六日)、
読売新聞の書評欄に取り上げられます。
著者は山口未花子さん。
岐阜大学の助教を務めておられます。
カナダの狩猟民カスカについて、
いわば体当たりでつづった研究書。
ミロコマチコさんの装画、
矢萩多聞さんの装丁とあわせ、
ぜひ手に取っていただきたいと思います。
ところで、
全国紙の書評掲載の予定は、
毎週水曜日ですから、
それが公表された日に弊社のツイッターで
情報を発信しています。
すでにご覧になった方もおられるでしょう。
昨日は五回のツイート。
近刊について、
本の内容、
著者紹介など。
ツイッターですから文字数は少ないですが、
刊行物を取り巻く社の動き、
著者の動向、
イベントなども
きめ細かく
旬の情報を発信していければと思います。
請うご期待!

・覚えればつかつてみたき花万朶  野衾

電子文字

 

・出社まで時を遅らす桜かな

商品としての電子書籍を
まだ買ったことがなく
読んだことがありませんが、
ディスプレイに表示された文字を読む
ということであれば、
日々行わない日はありません。
なので、
「電子文字」のほうが
わたしとしてはぴったりきます。
ところで、
体感としての電子文字の特徴は、
目で追う。
目が文字たちの上を滑る感じ。
ななめ読みが基本、
みたいな。
に対して、
従来型の紙の文字は
目で追いながら指で触る。
目で追うのと指で触るのとで
何処が違うか。
仕事のことで言えば、
間違いの気づき方が違う気がします。
校正作業をすると
それがよく分かります。
面倒でも、
出力した紙で読むほうが
誤りを見つけやすい。
紙に印字された文字はたしかに存在していて、
指でなぞれる気がします。
指先の感覚は精密。
ところで、
ディスプレイ上の文字となると、
極端に言うと、
こちらの意識を相当高めていないと、
何が書いてあるのか分かりません。
「手触り」「手触り感」という言葉を
このごろの書籍広告でよく目にしますから、
みなさん、
共通のことを感じているのではないでしょうか。

・枝離れ地に落つまでの桜かな  野衾

セザール・ビロトー

 

・原稿に向い鼻奥つんとせり

「セザール・ビロトー」はバルザックの小説。
バルザックの小説は、
ひとつひとつ独立していながら、
人物再登場の手法により、
全体として膨大な
「人間喜劇」を構成していますから、
あ! この人物、
ここでこんなことをしていたのか、
まるで極上の人間模様と
襞の境を目の当たりにするような、
眩暈でも起こしそうな、
そんな錯覚にとらわれます。
バルザックを読む度、
人間こんな感じ
人生はこんな感じ
等々と思い、
驕り高ぶってはいけないこと、
身の程を知ること
の大切さを思い知らされます。
セザール・ビロトーは香料商。
まじめにこつこつ仕事をしてきた人だったのに、
勲章を受章し好い気になり、
身の丈以上の舞踏会を催したあたりから、
歯車が狂い始める。
カネ、カネ、カネ、
カネの力の恐ろしさを
これでもかと思い知らされる
のもバルザックです。

・境内を雪ぎすすぎて桜かな  野衾

 

・消費税取り止めて欲し萬愚節

暑くても寒くても
室温をチェックする癖があり、
きのう帰宅し
ひょいと見たら、
21℃。
暖房を入れず
今年初めての21℃。
あちこち、
猫の眼が光る階段を上りながら
汗が滲んだのも宜なるかな。
ストーブを片付け、
冬物をしまい、
春物をいそいそと。
さてと何を。
今日はまた新入社員Yくんの初出社の日。
面接試験で
空手の型を披露してくれたYくん、
楽しみです。

・陽春の候と始めて句が継げず  野衾