約束

 

・鎌倉へ金沢からの道の秋

全十巻の
『新井奥邃(あらい おうすい)著作集』が
二〇〇六年に完結したとき、
それを記念し、
民俗学者また歌人としても名高い、
今年惜しくも他界された
谷川健一さんと対談(対談の内容は別巻月報に収録)
する機会がありました。
対談の最後、
谷川さんにお礼を申し上げたあと、
わたしは
「全巻そろったところで、
今度は編集者としてでなく一読者として、
ぼくはもう一度奥邃を読み返すつもりです」
と宣言しました。
それから七年目にして、
昨日、
自分との約束を
ようやく果たすことができました。
鉛筆で線を引いたり、
付箋を貼ったりしながら
緊張しつつ読みすすめてきましたが、
何よりもまず感じたのは、
字を大きくしておいてよかった
ということです。
いちいちメガネを外す必要がなかった。
これなら、
もっと歳がいってからでも読めます。
今回読んでみて、
奥邃のもとに集まった人びとに
編集時にもまして
さらに興味をおぼえましたが、
とくに、
わたしが今年前期に講義をした
十文字学園女子大学の創立者・十文字ことの夫、
十文字大元がその一人であったことを確認し、
驚くと共に、
ご縁の不思議を
感謝せずにはいられませんでした。
十文字大元と奥邃とのかかわりを
いまの学長に伝えたところ、
学長もご存じなかったらしく
驚かれておりました。
十文字大元は、
宮城県遠田郡出身の実業家です。

・かさかさと秋をささやく能見台  野衾