川上先生

 

・朝ぼらけビルの谷間の富士を見ゆ

小学三年生のときの担任の先生から
お手紙をいただきました。
秋田魁新報に掲載された拙文を読んでくださったそうです。
顔を真っ赤にし、大きな体をのけぞらせ、
よく笑う先生でした。
クラスの子どもたちは、
そんな先生が大好きでした。
ときどき、こわ~~~いお話をしてくれました。
いつも明るくにこやかな先生が、
その時だけは沈んだ声で
静かにお話されましたから、
子どもたちはいち早く、
ヤドカリみたいに
それぞれなじみの殻に閉じこもり、
ちょっぴり開いた蓋から顔をのぞかせるようにして、
先生のお話にじっと耳を傾けている具合。
だんだんと教室の空気が冷えていくようです。
なにか起きそう。
なにかが現れそう。
そのときです。
「男が振り向いた! み・た・な!
ギャ~~~!!!
ああ、怖かった。
こわかったよね~~。
「せんせー、こわいよ~~」
先生は、
いつもの先生に戻って、
顔を真っ赤にし、
大きな体をのけぞらせ、
いつものようにのびのび笑っています。
そんな先生が
みんな大好きでした。

・早春のひかりを伝ふ師の手紙  野衾