吐いたら五千円

 

・ブレーキをかけたいほどの師走かな

会社に置いてある本を紙袋に入れ
家に持ち帰ろうとしたら、
相当な重さだったので、
ギックリ腰をやった腰を庇い、
タクシーで帰ることにしました。
会社を出てすぐの交差点を渡ったところで
黄色のランプが見えましたから、
手を挙げて後部座席に乗り込みました。
個人タクシーで、
よく話す運転手さんでした。
朝から寒かったこと、一年がはやいこと、
これから政治はどうなるんでしょうね、みたいなこと。
「ところで、この時期はたいへんなんです。
いえね。お客さんで、
けっこう吐く人がいるんすよ。
具合が悪くて吐く人をこっちは怒れないですもんね。
でも、わたしのこの車、シートが布張りでしょ。
吐瀉物の臭いが染み付いてなかなか取れない。
まいっちゃいます。
忘年会で呑みすぎるのか知らないけど、
女の人が静かになったなぁと思っていると、やばい!
寒いところから温かい車の中にくると
ムカムカしてくるんですかね。
お詫びのしるしにお金をくれる人もいるけど、
合いませんよ。
法律でも条令でも作ってくれればいいんです。
タクシーに乗って吐いたら五千円とか…。
あ、そこを左ね。はい」

・呆けても年の暮れへとまつしぐら  野衾