Archives : 11月, 2012

権造おばさん

 

・冬の雨止むで青空ひろがりつ

木曜日は気功教室の日なのですが、
始まる前に
横浜駅の地下街にある魚敬(うおけい)で
お寿司を食べることにしています。
二皿ぐらい食べた頃だと思いますが、
小柄な中年の女性が店員に案内され、
わたしの隣に座りました。
なんとなくですが、
人の目をひく気配があって、
ちらと目をやると、
サングラスなのでしょうか、
眼鏡をずいと頭の上にずらし、
「ああ疲れた!」と一言、
店員に「ビールちょうだい」
店員「生にしますか? 壜にしますか?」
「ええと、壜。ああ疲れた」
よほど疲れているようです。
何をしている人なのでしょう。
格好はそう珍しくないのですが、
立ち居振る舞いが、
ビートたけし演じるところの
鬼瓦権造(おにがわらごんぞう)に
あまりにも似ています。
ドカジャンを着せたかったなあ。
カーブしているカウンターに立てかけてあるメニューを指差し、
「ええと、イクラ!」
板前さんから皿を受け取り、
お寿司を箸で摘まむときも、
両肩を怒らせ右肘を「く」の字にして、
その姿たるや鬼瓦権造そのもの。
またメニューを指差し、
「ええと、エビエビ、エビちょうだい!」
くいくいっ。
「うめぇ~!」
権造おばさんが二杯目の生ビールを注文したところで、
わたしは席を立ちました。

・何やらの秘密めかして落ち葉かな  野衾

虫も人も

 

・冬の道我れの呪文を唱へつつ

電車の中では岩波文庫の『完訳ファーブル昆虫記』
やっと三巻目に入りました。
ファーブル先生に付き合って、
気長にこつこつ読むつもり。
朝は桜木町駅で電車を降りるのですが、
段落の途中だと気持ち悪く、
ホームに立ち
切りのいいところまで読むこともあります。
それからいつものように階段を下り、
立ち食い蕎麦のお店の前で
「おはようございます」
と言えば、
すぐにおばちゃんが飛んできて、
差し出した水筒に
遠藤の青汁を入れてくれます。
家人が作ってくれた布袋に水筒を入れ
お代を払い、
それから交差する人間たちの間をぬい
エスカレーターに乗り
地下道をくぐって音楽通り方面へ。
江戸文化研究で名高い田中優子さんも通ったという
本町小学校脇の階段をゆっくり上りながら、
あ、
俺って虫みたいと
ふと感じました。
どんな感じかと言えば、
ちょっと言葉にしづらいけど。
五感と
さらに一つ足して六感といっても、
決められたことを
決められたとおりにしかできない
虫たちに似ており、
五感六感で感得できないもろもろが、
世界に満ちていないとだれが言えるだろう。
本当は
もっと凄いことが起きているのに、
つちばちがつちばちとして
疑いもなく生きるしかないように、
ほんの小さな虫メガネで
世界を見ているだけなのに、
エラそうに
にんげんさまのお通りだい
ああでもないこうでもないと、
言っているだけのような気がした。
そんな気がしたのも
ファーブル先生のおかげかもしれません。
今日もつづき。

・うず巻いてかさこそ語る枯葉かな  野衾

千成鮨

 

・保土ヶ谷といへば千成十周年

JR保土ヶ谷駅で横須賀線の電車を降り、
二階にある改札口を出て左手、
階段を下りたところのすぐ左に今の千成鮨があります。
今の、というのは、
前の場所から移転したからです。
十年前の十二月四日だそうです。
もうそんなになるんですね。
千成鮨三代目の修ちゃんが奥さんと切り盛りしています。
わたしはいつも修ちゃんと気安く呼んでいますが、
本当は長谷川修一さんです。
きのう、
すてきなコースターをもらってきました。
プロのデザイナーの仕事かと思いきや、
修ちゃんの奥さんがデザインしたそうです。
かっこいいし、裏の字配りも抜群。
修ちゃんの文章も気持ちいい。
短いあいさつ文ながら、
きりりと締まって、
修ちゃんらしい。
「精進」の言葉がぴったりです。
わたしの家人の母は
愛知県日間賀(ひまか)島にある旅館の娘ですが、
横浜へ来た折に二度
千成鮨に案内しました。
料理の旨さに舌を巻き、
保土ヶ谷はもちろん、
横浜と千成鮨が義母のなかで、
がっちり結びついたようでした。
むべなるかな。
刺身、お鮨もそうですが、
どの料理も気持ちをこめていることが分かります。
お店の雰囲気は明るく、
きりりと締まり、はつらつとして、
修ちゃんと奥さんをはじめ
スタッフ全員が気持ちいい笑顔に満ちています。
肩の力の抜けた清清しさと若さがただよっています。
先代と先代の奥様の後押しもあったでしょう。
修ちゃんの同級生の庄ちゃんが
前の店からずっと一緒に働いているのも、
修ちゃんの人柄と庄ちゃんの人柄のなせるわざ、
またお店の大きな力だと思います。
美味しいお鮨を気持ちよく食べたいならば、
保土ヶ谷駅そば千成鮨さんへ
一度お運びになってはいかがですか。
ちなみに、水曜日の今日は定休日です。

・冬の日や記憶の扉よ開けゴマ  野衾

飴と靴紐

 

・黒々と雪より冷たい雨が降る

なにかと思うでしょう。
飴と靴紐。
このタイトルから、
内容を想像できたら天才!?
なんて。
さて、こういうわけです。
先日出がけに
「塩とまと飴」なるものを口中にポイと投入しました。
(注: 塩と・まと飴じゃないですよ。塩味のとまと飴)
この飴、なかなかに美味い。
高尾山に登った帰りに
駅の近くの売店で買ったものです。
「食べるあめ」とキャッチコピーが付されています。
タイトルの話に戻ります。
塩とまと飴をしゃぶりながら、
玄関先で靴に足を入れ、
紐を結びました。
すると、
鼻が急にむず痒くなり、
身に覚えのあるツーとした感覚が走ります。
鼻血!?
靴紐を結ぶのを一時中断し、
右手の人差し指で鼻先をツイとこするや、
透明な液体が第二関節を濡らします。
ハッと思い、
自分のことながら、
声を出して笑ってしまいました。
考えてみればあたりまえですが、
飴を嘗めると唾がでます。
なので、
飴を嘗めながら靴紐を結ぶと、
重力に従い、
おのずと唾は鼻穴を通って下へ落下します。
案の定、
右手人差し指を嘗めたら甘い!
嘗めるまでもありませんでした。
教訓。
飴を嘗めながら靴紐を結んではいけない。
佐藤さん、知ってた?

・冷え冷えと底のない底を歩いている  野衾

めめしい

 

・誕生日母の電話の冬日かな

『失われた時を求めて』九巻目突入。
いやあ、長い長い。
くどいくどい。
同棲生活に嫌気がさし(そりゃそうだろうよ)、
家を出て行った恋人のアルベルチーヌは、
落馬して木にぶつかり
死んでしまいます。
それから延々と話者の分析がつづきます。
どこまで分析すれば気がすむの、
というぐらい。
分析好きなんだなあこのひと。
いくら分析しても、
亡くなった恋人は戻ってきません。
そりゃそうだろう。
恋人が亡くなったという知らせが入ってから、
話者のところに
恋人から手紙が二通届きます。
もちろん、
亡くなる前に投函されていたわけです。
古い外国映画にもあったなあ、こんな話。
それから、
この小説では恋人は落馬して死にますが、
トルコ人で初めてのノーベル文学賞受賞者
オルハン・パムクの
『無垢の博物館』では、
恋人が運転する車が木に激突し、
恋人は死に、
話者だけ生き残りますが、
これなど『失われた時~』が下敷きではないでしょうか。
分かりませんけれど、
一つの作品を読むことは、
とくに
それが古典となっている場合、
その後の作品への影響が
多方面にあるのはふつうでしょうから、
その辺のところを想像して読む楽しみも加わって面白い、
ということは確かにあります。
が、
それにしても、
『失われた時~』
長いし、
まったくくどい男だよ!
でも、
こういうくどさって、
男にはあるよなあ。
めめしいとは「女々しい」と書くけれど、
めめしいのは、
女ではなく男だものなあ。
そのあたりのことも、
この小説を読むといやというほどよく分かります。

写真は、ひかりちゃん提供。

・うれしきはケータイメールにりなぴかな  野衾

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三浦衛(みうら・まもる) 春風社代表にして自慢大王&悪ノリ大王。体調のいいときは自らを天才と称し、不調の折はちりあくたにも劣るヤツとしょんぼり。

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三浦衛の本


『カメレオン』
 三人ときどき声にならぬ声を洩らし/とろけ とろけ 唾までとばし/クヂるとナメるとネヂるとチョす…(「鳶」) 自在に色を変え、不意に突き刺さる、軽妙なことばの戯れ。秋田方言満載の詩集。本文は金属活字による活版印刷。


『マハーヴァギナまたは巫山の夢』
 三平佐世夫は、千一夜の夢うつつで女と戯れ、印度に旅し、睾丸を抜かれ、鰐を飼い、横浜を彷徨う。言語の崖っぷちを綱渡りする、めくるめく冒険。本文活版印刷に美麗造本を施した平成の大奇書。


『父のふるさと』
 父の目に映じた故郷の風土、ひと、くらし、農事を、愛惜をこめ描きだす。本文は金属活字による活版印刷。「身と蓋函」に納める。


『出版は風まかせ』
 横浜の出版社「春風社」社長が本づくりと会社経営にまつわるエピソードを豊富におりまぜ、創業から10年を振り返る。