完訳ファーブル昆虫記

 

・振り向けどぽかんぽかんの秋の風

いま電車の中では岩波文庫の
『完訳ファーブル昆虫記』を読んでいます。
小学生のころ、
子ども向けの本で読んだだけですから、
初めて読む本と言っていいでしょう。
子ども向けでなく、
抄訳でもない本のおもしろさと、
すごさ醍醐味をページを追うごとに感じます。
昆虫記ですから、
昆虫のことばかりかと思いきや、
そんなことはありません。
この本には
ファーブルの稀有の人生が
ぎゅっと詰まっています。
ゆっくり読めば、
ファーブルがそばにいて、
稀有な体験をだれにも
物惜しみせずに語りかけてくれます。
いま読んでいる二巻に、
ファーブルが子どものころに見た、
牛の屠殺現場の様子が印象的に記されています。
そして、
ある種の蜂が、
本能によって虫に針を刺し
麻痺させて蜂の幼虫に供するのに対し、
人間の屠殺行為は
本能によるものではないことを考察しています。
ここのところの記述は、
賢治の『フランドン農学校の豚』を想起させます。
死刑囚が人間の手によって殺されると、
話題になりますが、
動物も殺されるときには、
ちゃんと分かって恐怖するはずなのに、
問題にされることはほとんど無く、
賢治やファーブルのような天才か、
子どもだけがそのことを思い悩みます。
そんな、尊きいのちへの畏敬とおののきが
ファーブルの本には充ちています。
抄訳で済ますわけにはいきません。

・木曜日鮨を食ひても晴れやらず  野衾