血縁

 

・霧晴れて四方連なる蔵王かな

この連休を利用し帰省した折のことです。
弟に車を出してもらい森山に登った帰り、
実家に曲がる手前の坂を
スピードを落として下りてゆくと、
道沿いの畑をSさんが
背に赤ん坊を負ぶい鍬で耕していました。
Sさんは弟の教え子です。
弟は車を停め窓を開けて、
Sさんに声をかけました。
車に同乗していた父も助手席から声をかけます。
Sさんは、
朗らかに笑いながら答えます。
後部座席に居たわたしまで、
からりと晴れてゆくようでしたが、
その笑顔はわたしに馴染みのものでした。
Sさんのことは、
帰省した折に数度見かけた程度ですから、
よく知りません。
しかし、
Sさんのお母さんならよく知っています。
道を挟んで向かいの家ですから、
子どものころ、よく遊びました。
そのお母さんの、
さらに
先年亡くなられたお祖母さんの笑顔に、
Sさんの笑顔はそっくりでした。
あたりまえといえば、
これほどあたりまえなことはありません。
不思議な感慨に捉えられて数秒、
車はとっくに
家の前まで来ていました。

・山登り紅葉に逢ひて驚きぬ  野衾