暮らしの音

 

・熱風を吐きてゴジラになりにけり

詩人の長田弘さんとのトークイベントが終りました。
長田さんの、
『ねこに未来はない』
『記憶のつくり方』
『私の二十世紀書店』
を取り上げ、
いろいろ楽しいお話をうかがいました。
いまも、
何代目かになる猫を飼っておられるそうです。
わたしは、
学生のときから
長田さんの本が好きで、
暮らしの教科書として、
また、
同時代を見、
知るための教科書として、
折にふれ長田さんの本を読んできました。
そのことをとおして、
本の読み方を教わった気がします。
本を読むことは
けして消極的でなく、
むしろ意志的で、
積極的な行為であるということを。
敬愛する長田さんと
直に話ができるというのも、
出版社勤めをしていればこそ。
ありがたいことだと
あらためて感じました。
少し早めに来社された長田さんに、
コーヒーとラスクをお出ししたところ、
まずコーヒーを一口、
それからラスクが入った袋を手にとり、
ためつすがめつ。
袋を破り一枚目のラスクを口中へ。
バリ、バリリ。
おいしそうにめしあがります。
またコーヒーを。
それから二枚目のラスク。
習慣がパトリアという長田さんの
暮らしの音をきいた気がしました。

写真は、ひかりちゃん提供。

・哀れ蚊に哀れ血をやる女性(にょしょう)かな  野衾

滑稽プルースト

 

・秋風や待ってましたと吸いにけり

『失われた時を求めて』を
読み直していますが、
思わずプッと、
笑いが口をついて出ることがあります。
二十代のときに
初めて読んだときは、
そんなことはありませんでした。
どんなところかというと、
たとえば、
男が好きな女のこころを引き寄せたくて、
いろいろぐだぐだと説明やら
言い訳やらを語るのを
相手の女が煩わしく感じ、
とっとと次の行動に移るような場面。
恋する男が深刻であればあるほど、
それをまた細密に描写すればするほど、
滑稽味は深くドラマチックです。
それがなんともうまい。
ていうか、
可笑しすぎ。
これはぜったい、
作家が計算してやっているとしか思えません。
初めて読んだとき、
そんな箇所に気づいていたのかどうか。
気づいていても、
滑稽とは感じなくて、
悲しいことというふうに感じたかもしれません。
若いとき深刻で悲しく思えたことが、
歳を経てみれば滑稽きわまりないということがあります。
作品が二十世紀最高の文学といわれ、
いかにも真面目そうな、
神経質そうな、
頭のよさそうな肖像写真から
勝手なイメージを抱いてきましたが、
どうもそれだけじゃないぞと思い始めています。
まだ二巻目ですが、
再読の小さな発見、大きな効用です。

写真は、ひかりちゃん提供。

・プルーストの時を求めて九月かな  野衾

捨てたもんじゃない!

 

・漸くに秋の尻尾を捕獲せり

『マーク・トウェイン自伝』を
アマゾンのマーケットプレイスで購入しました。
広島からきのう本が届いたのですが、
封を解き、
驚きました。
本代+送料=九五〇円
がそっくり入っていたからです。
どうしたのだろうと思い、
荷物のなかをよく見ると、
手紙が入っていました。
曰く、
「このたびは、『マーク・トウェイン自伝』
お買い上げありがとうございました。
ご注文を受けて、
すぐに発送する予定でしたが、
本を今一度見てみました所、
表にシミ等がありました。
本のコメントに「中も外もきれいです」
と誤った記載をしてしまい、申し訳ありませんでした。」
送ってもらった本は、
新刊書ではありませんから、
それなりに日焼けし、
シミもないではありません。
しかし、
古書としてはいたって普通です。
ちょうどその手紙を読んだとき、
昼時だったため、
社内にはわたしのほかに
T君しかいませんでしたから、
T君を呼び、
手紙を見せました。
文面を目で追いかけていたT君の表情が変りました。
「すごいですねー」
「誠実さに勝るものはないね」
T君は午後、
大事な打ち合わせのために出かけていきました。
夕刻、
わたしが会社をでて、
ほんの少しだけ涼しくなった紅葉坂を下っていると、
反対側からT君が上ってきました。
にこにこしています。
打ち合わせは、
どうやらうまくいったようです。
「いい話し合いになったみたいだね」
「はい。ありがとうございます」
きょう、
手紙を添えお金を送り返そうと思います。

・鰯雲遥か地表の子らの声  野衾

 

●ツブヤ大学「BooK学科ヨコハマ講座」

春風社事務所を会場にして、
毎月行っているトークイベントのお知らせです。
今月は、
「長田弘の読書会」と題し、
詩人の長田弘さんをゲストにお招きします。
日本を代表する詩人のお話をすぐ近くで拝聴し、
じかに対話できる絶好の機会です。
本を読むこと、詩を書くこと、生きること、
について
時間のゆるす限りうかがいたいと思います。
当日は、
長田さんのたくさんある自著のなかから、
以下の本をとりあげ、
楽しい会にしたいと思います。
ふるってご参加ください。
お早目のご予約をお願いします。

『ねこに未来はない』(角川文庫)

『記憶のつくり方』(朝日文庫)

『定本 私の二十世紀書店』(みすず書房)

●日時 9月15日(土)午後3時~
●場所 春風社
●参加費 1000円

詳しくは、こちらをご覧ください。

 

なにもかも

 

・秋風や吹いて憩へる処なし

ココイチの期間限定
「炎のレッドキーマカレー」を食べたくて、
きのうも炎天下
JR桜木町駅近くの店まで歩きました。
「きのうも」というのは、
おとといも食べたからです。
おととい食べて美味しかったから、
また行きました。
根が貧乏症なのか、
期間限定という言葉にひどく弱い。
ココイチの宣伝文に、
「ハバネロや辛みオイルの辛さとともに、
玉ねぎや豚ひき肉の旨みを十分に引き出した、
辛さへの挑戦メニュー」とあります。
来月末までだそうです。
カウンターの奥の席で
皿の半分ぐらいを平らげたころ、
どやどやとサラリーマン風の
りゅうとした四人連れの男たちが入ってきて、
控えの椅子に座りました。
女性店員がさっそくメニューを持参し
注文を聞いています。
メンチカツカレー、パリパリチキンカレー、ビーフカレー。
これもおいしそうだぞ。
そうだね、
そっちにしようかな。
辛さとご飯の量はいかがいたしますか?
ええと、
ぼくは1辛でご飯の量はふつう。
ぼくは辛さふつうで、
ご飯の量は二〇〇グラムにしてください。
わたしは2辛で、
ご飯は、そうだな、どうしようかな、
四〇〇グラムにしようかな、食えるかな、
食えるか。
よし、四〇〇グラムにしてください。
そちらのお客様はビーフカレーでしたね。
辛さとご飯の量はいかがいたしますか?
なにもかもふつうにしてください。
細かく言うのがよほど面倒くさかったのでしょう。
辛さとご飯の量のふたつについて言うだけなのに、
なにもかも、とは。
なにもかもふつうにしてください。
いやあ、ウケた。
ウケました。
あやうく、
炎のレッドキーマカレーをプッと吹きそうになりました。
わたしも今度言ってみようっと。
辛さとご飯の量はいかがいたしますか?
なにもかもふつうにしてください。
ウケるっ。

・カレー食べくしゃみが出ると大変よ  野衾

 

 

●ツブヤ大学「BooK学科ヨコハマ講座」

春風社事務所を会場にして、
毎月行っているトークイベントのお知らせです。
今月は、
「長田弘の読書会」と題し、
詩人の長田弘さんをゲストにお招きします。
日本を代表する詩人のお話をすぐ近くで拝聴し、
じかに対話できる絶好の機会です。
本を読むこと、詩を書くこと、生きること、
について
時間のゆるす限りうかがいたいと思います。
当日は、
長田さんのたくさんある自著のなかから、
以下の本をとりあげ、
楽しい会にしたいと思います。
ふるってご参加ください。
お早目のご予約をお願いします。

『ねこに未来はない』(角川文庫)

『記憶のつくり方』(朝日文庫)

『定本 私の二十世紀書店』(みすず書房)

●日時 9月15日(土)午後3時~
●場所 春風社
●参加費 1000円

詳しくは、こちらをご覧ください。

 

『失われた時を求めて』再読

 

・思考停止けふも残暑の句となりぬ

高校教師をしていた二十代、
そのころは土曜日も授業があり、
二時間つづきのゼミをもっていたわたしは、
その時間をつかい読書会を行ったり、
文化祭に向けた芝居を
生徒といっしょに稽古したりしていました。
ふだんの日よりも授業準備がたいへんで、
終るとぐったりくたびれ果て、
プルーストの『失われた時を求めて』
を読みたくても、
日曜日しか時間をつくれませんでした。
それに、
もちろん翻訳ですが、
のたくるようなあの文章です。
高遠さんのようなキレのいい日本語訳はまだなく、
眠くならないはずがありません。
両頬を自分でビンタしたり、
両目をカッとひん剥いたりするのですが、
数秒後には
眠りの底なし沼に引きずられてしまいます。
それでも、
読まなければ読まなければと思って、
読みつづけました。
見栄もあったでしょう。
いや、
見栄しかなかったかもしれません。
ともかく、
一年と数ヶ月かけて読み終りました。
辛抱づよさだけはあるのです。
いま、
ほぼ三十年ぶりに再読にかかっています。
今度は毎日、
早朝のいちばんいい時間をあてています。
あまり眠くなりません。
ほんとうは高遠さんの訳で読みたいのですが、
全部訳し終わるのに、
あと十年はかかるでしょうから、
ちくま文庫に入っている井上究一郎訳で読んでいます。
さて、この間、
わたしの三十年も失われたので、
書名がぐっと身近になりました。
せっかくですから、
今年七月に出たばかりの
海野弘著『プルーストの浜辺―『失われた時を求めて』再読』
も読んでみようと思います。

・タクシーの漕ぎ手も嘆く残暑かな  野衾

 

 

●ツブヤ大学「BooK学科ヨコハマ講座」

春風社事務所を会場にして、
毎月行っているトークイベントのお知らせです。
今月は、
「長田弘の読書会」と題し、
詩人の長田弘さんをゲストにお招きします。
日本を代表する詩人のお話をすぐ近くで拝聴し、
じかに対話できる絶好の機会です。
本を読むこと、詩を書くこと、生きること、
について
時間のゆるす限りうかがいたいと思います。
当日は、
長田さんのたくさんある自著のなかから、
以下の本をとりあげ、
楽しい会にしたいと思います。
ふるってご参加ください。
お早目のご予約をお願いします。

『ねこに未来はない』(角川文庫)

『記憶のつくり方』(朝日文庫)

『定本 私の二十世紀書店』(みすず書房)

●日時 9月15日(土)午後3時~
●場所 春風社
●参加費 1000円

詳しくは、こちらをご覧ください。

 

ひとり怒り

 

・ぼやいてもぼやいてもなほ残暑かな

あっつえなー。
ったくよー。
くるってるよ。
奈実ちゃん、かっわいい、う~、か。
異常気象なんだよ。
なんでこんなにあっつえんだ。
九月だよもう。
半ばにもなるっつーのに。
おっかしいだろ。
なにやってんだよ。
なんで復興予算を被災地じゃないところにつかってんだよ。
おっかしいだろ。
間接的に復興につながるっていったら、
そんなの
どんなふうにでもでっちあげて
カネのぶんどり合戦になるにきまってんじゃねーか。
書類をうまく書ける奴んとこに行くんだよ。
オリンピックの時期に消費税増税法案を通すって
どいうことだよ、ったくよー。
目くらましの術(て)じゃねえか。
よーよーよー。
くそ泥鰌ヤロウがっ。
あの面(つら)見てると、
むかついてくるんだよっ。
おめえの首なんか、
はなから要らねんだよ。
秋田じゃ、
ああいうでこぼこのあばた面を
あひぇらぐっていうんだよ。
汗がすーと下りてこないで、
凸凹につっかかりながら、
ゆっくりしか落ちないから、
それであひぇらぐ=汗楽(汗が楽)っていうんだ。
ったくよ。
あ~あ。あ~あ。
どうしてこうなんだろうな~。
おもしろくねーなー、この国。
だめだなあ、この国。
せめて涼しくなってくれよ、空。

写真は、なるちゃん提供。

・ジージージー季節の外の蝉の声  野衾

 

●ツブヤ大学「BooK学科ヨコハマ講座」

春風社事務所を会場にして、
毎月行っているトークイベントのお知らせです。
今月は、
「長田弘の読書会」と題し、
詩人の長田弘さんをゲストにお招きします。
日本を代表する詩人のお話をすぐ近くで拝聴し、
じかに対話できる絶好の機会です。
本を読むこと、詩を書くこと、生きること、
について
時間のゆるす限りうかがいたいと思います。
当日は、
長田さんのたくさんある自著のなかから、
以下の本をとりあげ、
楽しい会にしたいと思います。
ふるってご参加ください。
お早目のご予約をお願いします。

『ねこに未来はない』(角川文庫)

『記憶のつくり方』(朝日文庫)

『定本 私の二十世紀書店』(みすず書房)

●日時 9月15日(土)午後3時~
●場所 春風社
●参加費 1000円

詳しくは、こちらをご覧ください。

 

長田弘さん

 

・しつこくもしがみ付きをる残暑かな

若いときから長田さんの本を読んできましたが、
まさかご本人とお話できるとは
思いませんでした。
今週末にトークイベントがあります。
取り上げる三冊をまとめて再読しましたが、
やっぱり面白い。
それぞれ、
三十代、四十代、五十代で上梓された本ですが、
長田さんの歴史を垣間見るようです。
『ねこに未来はない』のなかに、
つぎのような言葉があります。
「ねこだけは飼ってなければ何もわかっていないに同じなのだ。
むかし飼ったことがあるというのでもいけないし、
飼いたいと思っているだけでもだめなのだ。
現にいま、飼っているというのでないかぎり、だめだ。
それほどねこという動物は現在的な、
あまりに現在的な動物なのだから」
〈いま〉〈ここ〉を大事に
言葉をつむいできた長田さんの真骨頂です。
日々の暮らし方を長田さんに学んできた気がします。
歴史の見方、聴き方も。

・蟷螂の出でて隠れる場所も無し  野衾

 

 

●ツブヤ大学「BooK学科ヨコハマ講座」

春風社事務所を会場にして、
毎月行っているトークイベントのお知らせです。
今月は、
「長田弘の読書会」と題し、
詩人の長田弘さんをゲストにお招きします。
日本を代表する詩人のお話をすぐ近くで拝聴し、
じかに対話できる絶好の機会です。
本を読むこと、詩を書くこと、生きること、
について
時間のゆるす限りうかがいたいと思います。
当日は、
長田さんのたくさんある自著のなかから、
以下の本をとりあげ、
楽しい会にしたいと思います。
ふるってご参加ください。
お早目のご予約をお願いします。

『ねこに未来はない』(角川文庫)

『記憶のつくり方』(朝日文庫)

『定本 私の二十世紀書店』(みすず書房)

●日時 9月15日(土)午後3時~
●場所 春風社
●参加費 1000円

詳しくは、こちらをご覧ください。