レンガな本

 

 出版の鍋も華やぐ春の宵

震災後に渋谷のサラヴァ東京を会場にし、
作家、詩人、歌人たちが新作を持ち寄り
「ことばのポトラック」として
朗読のイベントを行ってきました。
昨日がその第八回目。
サラヴァとは、ポルトガル語で
「あなたに神の祝福がありますように」の意。
昨日の日にあわせ、
これまでのイベントを一冊にまとめた本を、
春風社から刊行しました。
昨日朗読される原稿は、
事前に著者から送っていただきそれも収録、
イベント前日に本が出来上がるという離れ業。
わたしもそうでしたが、
編集を担当したナイツー君は、
針の筵に座らせられた気持ちだったでしょう。
著者校正を経ているといっても、
著者も編集者も人間です、
どこかでミスをしている可能性がありますから。
が、それもなく、
無事終了しホッ、ホッ、ホッとしました。
編集長の内藤寛くん、
イメージを形にしてくれた装丁家の矢萩多聞さん、
素敵な装画で表紙を飾ってくれたたけなみゆうこさん、
ありがとうございました。
そして、
ほかの出版社をご存知でありながら、
春風社を選び、
編者の大竹昭子さんに紹介してくださり、
声をかけてくださった詩人の佐々木幹郎さん、
ありがとうございました。
春風社を知って以来、
いつか春風社といっしょに遊びたいと思っていたと、
ご挨拶くださいました。
心からうれしかったです。
本のイメージとしては当初から、
棚に収まる本でなく、
瓦礫のなかから拾ってきたような、
仮設住宅でナベ敷きにも使えるような、
レンガみたいなものをと佐々木さん。
まさに、
レンガみたいな分厚い本が出来ました。
わたしはもともと分厚い本が大好きです。
かつ、
値段も396頁で税込1890円と、
極めて廉価(レンガ)。
ダジャレです。
中身はいたってマジメです。
内容とつくりからいって、
三倍の税込5670円でもおかしくない。
これは宣伝です。
どうぞ皆様、
お手にとってパラリと開き、
指がおさえたその頁から読み始めてみてください。

 サラヴァ聴きさらばと聴きし去年(こぞ)の秋  野衾

『ことばのポトラック』

 

 突風のごとく襲はる沈丁花

東日本大震災が起きたのが昨年の三月。
それから半年後、
社員一同で宮城県石巻を訪ねました。
写真家の橋本照嵩さんが案内してくれました。
その前日、
みんなで仙台市の八木山を歩いていたとき、
ケータイが鳴りました。
会社で留守番をしてくれているNさんからでした。
佐々木さんという人から電話があったと。
どこの佐々木さんだろう?
「どんな感じだった?」
「素朴な感じでした」
光郎さんかな?
わたしのケータイの番号を教えたので、
間もなく電話がいくはずだからよろしくとNさん。
ケータイ電話が鳴りました。
佐々木幹郎さん、
詩人の佐々木さんでした。
作家の大竹昭子さんの発案で、
震災後に渋谷のサラヴァ東京を会場にし、
(サラヴァをわたしは最初、日本語の「さらば」と勘違い。
そうか、東京はダメだからおさらばさらば、
東京におさらばするんだな)
作家、詩人、歌人、写真家たちが
新作を持ち寄り朗読するイベントをおこなっている。
それが「ことばのポトラック」
これからも回を重ね、
一年を期して本にしようと考えているが、
春風社でやってもらえないだろうか、云々。
うれしくて、
ケータイを持つ手がふるえた。
たしか、
「うちでいいんですか」と申し上げたはず。
うちでよければ喜んでやらせていただきます、とも。
その本が今日出来てきます。
書名は『ことばのポトラック』
A5判変形、398ページで定価1890円(税込)
安い! 自ら言います。
ポトラックとは、
持ち寄り料理のことです。
物を食べなければ生きていけない人間はまた、
ことばを食べて消化し栄養にする動物です。
いつしか食べたものを、食べたことすら忘れても。
だから、ことばのポトラック。
ぜひ手にとって読んでみてください。
きっと栄養になることばがみつかるはずです。
持ち寄ってくださった方は、以下の通り。(敬称を略します)
佐々木幹郎、平田俊子、古川日出男、堀江敏幸、ルクレジオ、管啓次郎、くぼたのぞみ、南映子、閒村俊一、ピエール・バルー、Ayuo、小池昌代、東直子、温又柔、デビット・ゾペティ、ヴァルデマル・サンチアゴ、くぼたのぞみ、高橋ブランカ、レナ・ジュンタ、旦敬介、清岡智比古、関口裕昭、稲葉真弓、文月悠光、唐作桂子、ミーヨン、穂村弘、栗木京子、石川美南、岡井隆、早稲田短歌会、谷川俊太郎、高橋睦郎、畠山直哉、保坂和志、河瀨直美、角田光代、スズキコージ、アツコ・バルー、森村泰昌、長島有里枝、大竹昭子、片岡義男

そもそも

 

 春風や背中押されて進みけり

ワン・ツー・スリーで、
今日も
『突撃! よこはま村の100人 自転車記者が行く』
について。
そもそもこの企画を考えたのは、
昨年起きた東日本大震災がきっかけでした。
わたしがよく行く保土ヶ谷のOさんという床屋が、
電気バリカンでわたしの頭を刈りながら、
「たいへんなことになっちゃいましたね。
風呂にも入れないっていうし。
わたしも向こうへ行って、
頭を刈ってあげたいと思うんですけどね。
風呂に入れなくても、
散髪するだけでもサッパリしますから。
でも、なかなか。商売があるとね」
この言葉にピンと来ました。
そうか。
そう思っている人は少なくないんじゃないか。
というより、
多くの人はそう思っているに違いない。
でも、
思っても、
体を現地に運ぶことはなかなか難しい。
したくても、
できない現実もあるだろう。
ならば、
本をつくることで、
思いの一端でも形にし、
現地との交流のよすがにできないだろうか。
神奈川新聞社の好評連載コラム「自転車記者が行く」の
佐藤将人記者にそのことを話したところ、
すぐに了としてくださり、
印税分を被災地へ送ることになりました。
「自転車記者が行く」は、
市井の人びとの暮らしぶり、
人情を細やかに取り上げています。
佐藤記者が自転車を駆って集めたキラキラする記事ばかり。
街の魅力は、人の魅力と気づかされます。
日々の暮らしと営みが新聞に取り上げられ、
それが本になることで、
被災地の人びととつながるよすがとなり、
被災地を思い、
被災地の復興を願い、
思い続けて、
でも持ち場を離れず自分の足場を固めること。
暮らすということ。
それぞれがそれぞれの役割をしっかり果たすこと。
そのことも大事ではないかと思いました。
昨日の神奈川新聞に、
佐藤記者が「「春風」に乗り書籍化」と題し、
記事を書いてくださいました。
コチラです。

 一陣の風浴び芽吹くいのちなり  野衾

間髪入れずに

 

 傘を折る春の嵐の猛々し

昨日に引き続き、
『突撃! よこはま村の100人 自転車記者が行く』
について。
装丁と本文のレイアウトを担当する矢萩多聞さんから、
装丁の案が上がってきました。
著者の佐藤記者にも同席していただき、
社員一同でどの装丁がいいか協議しましたが、
営業の大木さんに意見を求めたところ、
間髪入れずに、
「これ!」と。
いやぁ、見事でした。
有無を言わせぬ迫力に充ち。
書店営業を意欲的積極的に推し進めている彼女なればこそ、
我が事として、
この本を売りたく思っているのでしょう。
昨日のあの嵐の中、
本のオビに入れるコメントを頼みに
横浜駅近くの書店を訪れ、
その報告を電話でしてきました。
電話してきた彼女の後ろで
嵐がびゅーびゅー唸っていました。

 防ぎても根こそぎ春の嵐かな  野衾

共感の物語

 

 只管にいのちあふるる四月かな

「神奈川新聞に好評連載中のコラムが一冊の本になった。
大店舗、チェーン店がのきなみ展開する昨今、
規模は小さくても、
笑いと涙と感動を胸に日々奮闘努力する横浜の面々を
自転車の目線からユーモアたっぷりにお届けします。」
これは、今月刊行予定の
『突撃! よこはま村の100人 自転車記者が行く』
の宣伝文で、
すでにアマゾンに掲載されています。
コチラをご覧ください)
細かいところ(タイトル中の「横浜」を「よこはま」に、
「同じ」を「自転車の」になど)は、
今日訂正させていただきます。
著者の佐藤記者は気骨のある青年で、
体育会系でキレがよく、
「ウッス!」など言います。
市井の人びとに寄り添い、
「ひとごと」の物語を「わがこと」として共感し、
ていねいにつづっています。
そこに確かに人が息づき、
暮らしがあると感じられます。
各ページに得地直美さんのイラストを配し、
装丁と本文のレイアウトは矢萩多聞さんが担当します。
この本は、
若い人たちがつくりだす
いわば「共感の物語」ともいえるかと思います。

 目を細め自転車漕ぎたき四月かな  野衾

竹下通り

 

 春なれば靴張り替へてたひらなり

イラストレーターの得地直美さんの五人展を見に、
原宿のペーターズギャラリーまで。
JR原宿駅で電車を降り、
竹下通りを通って行くんですが、
通りから
ところてんのように人が溢れ、
えいっ!
と紛れ込んで進んだら、
まさに隙間がない。
立錐の余地なしというのは、
こういう状態をいうのかと思いました。
いやぁ、
ほんとびっくりしました。
横浜駅周辺も
このごろ人が多くなりましたが、
とても横浜の比でありません。
顔の横わずか三センチのところを、
まつげビョンビョンのポックリ履いたねえちゃんが
ラクダみたいに通っていくのですから、
驚きます。
叫びたくなりました。
地図を見い見い、
なんとかギャラリーまでたどり着き、
ホッと一息。
おしゃれな空間と静かな時間に浸りました。
言葉以上に絵が語りかけてきます。
得地さんの「富山の雪」よかった。
雪国生まれの人でなければ、
こういう構図で雪を表現しないだろうと思いました。
五人展は今月四日まで。
ほかの四人の方のも面白かったですよ。
トム・ウェイツの似顔絵には笑ってしまいました。
お近くの方はどうぞ。
詳しくは、
コチラをご覧ください。

 春なればポックリ履いてラクダかな  野衾