ゆうちゃん

 

 春分の日を胡坐にてジョンソン伝

家人の姪のゆうちゃんは六歳。
来月から小学生になります。
バイオリンがとにかく好きで、
一日数時間の練習を厭いません。
発表会では緊張するということが全くなく、
壇上から客席を睥睨している風。
またゆうちゃんは、
ときどきおもしろいことを言います。
先日、家人が妹に電話したときのこと、
ゆうちゃんが受話器をとりました。
少しだけゆうちゃんと話し、
そろそろ妹に電話を代わってほしいと思ったかして、
その旨をゆうちゃんに告げると、
ゆうちゃん、「待って待って。勝負する」
何を勝負するのでしょうか。
よくわかりませんが、
きっとどこかで「勝負する」という単語を聞きつけ、
これは使えると思ったのでしょう。
ふだんのゆうちゃんを知っているので、
たしかにゆうちゃんは勝負する子と納得です。
この春休みに初めて外国へ行くことになり、
ゆうちゃんは、
姉のさきちゃんとお母さんと三人で
パスポートセンターに向かいました。
手続きは大人がしても、
確認のため本人が赴かなければなりません。
相当長い列ができていたらしく、
なかなかゆうちゃんたちの番が回ってきません。
とうとうこらえ切れなくなり、
ゆうちゃん、
「出番、まだ?」
たしかに出番ではありますが…。
列に並んだ皆さんから笑いが漏れていたそうです。

 パスポート列に並びて出番まだ?  野衾

カピタン

 

 大口でちりめんじゃこを頬張りぬ

DVDで黒澤明監督の『デルス・ウザーラ』を見ました。
作者のアルセーニエフは探検家として、
ソ連政府の依頼に基づき、
地図作成をもくろみ隊長となって空白地帯の旅をします。
先住民ゴリド族の猟師デルス・ウザーラは、
探検隊一行と山中で出会い、
隊長から案内役を依頼されるのですが、
デルス役のマクシム・ムンズクがいい味出しています。
ところで、
この映画を初めて見ながら、
不意に思い出したことがありました。
それは、
カメラマンの橋本照嵩さんのことです。
ずいぶん前になりますが、
十数年前でしょうか、
酔いの回った橋本さんがさかんに、
「カピタン。カピタン」と何度も連呼します。
なにがそんなに面白くてカピタンカピタン言うのだろうと
訝しく思いながらも、
それはそれとして放っておき
楽しく飲んだのですが、
きのう、はっきりと分かりました。
先住民ゴリド族のデルスが
隊長のアルセーニエフを呼ぶとき、
カピタン(隊長)カピタンと呼ぶのです。
その声色がとても独特で、
だんだんと
なんともいえない親密さを増していきます。
声に表れたその色が
橋本さんはきっと好きだったのでしょう。
またどうしたわけか、
デルス役のマクシム・ムンズクを見ているうちに、
それが橋本さんに見えてきて仕方ありませんでした。

 春なればふっくらアナゴ散らし寿司  野衾

アマゾンでの本の購入について

 

 シャツ一枚脱いで身に染む春の風

お知らせです。
出版社に在庫があるのに、
アマゾンでの本の表示が「在庫なし」
あるいは「お届けまで2~3週間かかります」
のようなことが度々あり、
なんとしてでも改善するべく、
アマゾンの担当者、
関係の取次とも連絡を取ってきましたが、
今月から、
Amazon.co.jpでの新刊のご予約、
および刊行後すぐのご購入が可能となりました。
これまで、アマゾンの表示について
ご意見ご希望をお寄せくださった皆様、
ありがとうございました。
今後ともよろしくお願い申し上げます。

ホームページヘッダーの写真が春バージョンになりました。
写真は、橋本照嵩さんです。
どうぞお楽しみください。

 一年の眠りに入る防寒具  野衾

十四分

 

 春風や駘蕩として思はざり

保土ヶ谷駅-横浜駅間は、
JR横須賀線の電車に乗ること四分。
横浜駅-桜木町駅間は、
JR京浜東北線の電車に乗ること三分。
なので、朝七分。
帰宅時七分。
計十四分。
土日祭日を除いて毎日ですから、
ちりが積もれば山の例もあり、
けっこう本が読めます。
岩波文庫で数冊出ているボルヘスの本や、
いつも途中で投げ出していた
中野好夫訳『ガリバー旅行記』(新潮文庫)を、
一日十四分の車中読書で読了しました。
いまは、
ポール・ヴァレリー作『ムッシュー・テスト』(清水徹訳)
を読んでいます。これも岩波文庫。
薄い本なので、
そんなに時間がかからないでしょう。
これが終ったら、
ヴォルテール作『カンディード』を読もうと思っています。
いま読んでいる本が巻の中ほどまで来て、
つぎに何を読もうかなと
思念しているときが
いちばんおいしい時間かもしれません。

 将棋さし面会謝絶の蘆花の春  野衾

コーヒー本

 

 春なれば頭の中もおぼろなり

コーヒーについて書いてある本
というわけではなく、
コーヒーを飲むときに読む本の意で、
正確には、
この日記を書き終えてから
コーヒーを淹れる日課ですが、
まず薬缶でお湯を沸かし、
次に豆を挽きロートに入れ、
お湯を注いだフラスコにロートを斜めに差し、
それからアルコールランプに火をつけて
ボコボコ沸騰してくるのを待つこと二分、
今度はロートを垂直に差し込み、
お湯がロートに上がってきたら、
左に二回、
右に三回ゆっくり竹べらで掻き回し一分十秒。
さらに、
コーヒーが下に落ちてくるのを待ちます。
というわけで、
こま切れの時間がけっこうあります。
ガッツリした本はとうてい開く気になれず、
気軽に読める本を立ったまま読むことになります。
今は、
晴山陽一さんの『すごい言葉』(文春新書)。
その中に、
こんな言葉が紹介されていました。
「私は速読コースを受講し
『戦争と平和』を二十分で読めるようになった。
ありゃ、ロシアに関する本だね」
たしかにすごい!
朝四時台の静かな部屋で一人大笑いしました。
名文句を発した主は、
アメリカの俳優で映画監督のウッディ・アレン。
さすが!
さて今日はどんな言葉に出会うかな。

 クッキーに鼻蠢かすホワイトデー  野衾

春の夢

 

 天気予報春はまだかとかぶりつく

「NHK アナウンサー かわいい 845」
こんなふうなキーワードで検索したら、
すぐに出てきました。
守本奈実。
そうか。
もりもとなみさんていうのか。
845というのは正確には「首都圏ニュース845」なのですが、
忘れていました。
845だけは覚えていました。
検索するには問題ありません。
昨年後半ぐらいからテレビで見るようになり、
へ~、
こういうアナウンサーがいるのかと思っていましたが、
きのうテレビをつけたら、
また出ていました。
ふむ。
やっぱりかわいい。
そこで、
一夜明け、
ただいまの検索とあいなったわけですが、
昔なら、
パソコンのない時代なら、
友達に訊いたり、
知人に尋ねたり、
挙句の果ては、
NHKの「お客様相談室」に電話してたかもしれません。
今は便利になりました。
ところで、守本奈実さん、
学習院大学卒業なのだそうです。
中条先生の教え子だったりして。
今度、中条先生に訊いてみようかな。
そんでもって、
「春風目録新聞」になにか文章を寄稿してもらおうかな、
書いてくれるか、わかんないけど。
夢は広がります。

 きょろきょろと春を探して通勤路  野衾

朝はまだ

 

 白梅や見慣れし家の垣根越し

三月も半ばですから、
日中はだいぶ温かくなりました。
が、
朝晩は冷え込むことが多く、
今も毛布を体に巻いてこれを書いています。
休日、
三河湾を望める宿に一泊し、
海の幸に舌鼓を打ち、
温泉を心ゆくまで楽しんで来ました。
時間帯のせいか、
夜も朝もどっぷりとした湯にわたし一人が浸かり、
なんともぜいたくな時間が過ぎていきます。
旅の間に読んだのは、
サン=テグジュペリの『人間の土地』(新潮文庫)と、
清水徹の『ヴァレリー 知性と感性の相剋』(岩波新書)。
「また経験はぼくらに教えてくれる、
愛するということは、
おたがいに顔を見あうことではなくて、
いっしょに同じ方向を見ることだと。」という
二十代前半でなければ口にするのもはばかられる有名なこの言葉、
『人間の土地』のここに出てくるのだったかと、
妙なところで感動したり。
また、
あの〈知性のひと〉たるポール・ヴァレリーが、
あんなにも〈女好き〉であったとは。
でも、
本に取り上げられた四つの恋に登場する女性たちは、
さすがに知性の人と恋に落ちる(落ちていない人もあり)だけあって、
実に魅力的。
老残の身をさらし、
恋にやぶれるヴァレリーのなんと痛々しいこと。
人の振りを見ても自分の振りがいささかも直らないのが
恋と人生であるようです、
てか。

 海鳥の逃げて浮ぶや春の海  野衾