鬼灯

 

 ちろちろと季節忘れぬ虫の声

鬼の灯と書いて、ほおずき。
たしかに赤い提灯に見えないことはありません。
母はよく、
熟した赤い実の中をくりぬき、
小さな円い皮を口に含んでブーブーと鳴らしていました。
文字で音のニュアンスを表せませんが、
一種あきらめに似た悲しさがありました。
母がいつ覚えたのかは分かりません。
わたしが子どもの頃、
一度真似してやってみようとしましたが、
中身を上手くくりぬけず、
ブーブー鳴らしたところで、
ただそれだけのことに思え、
さほど面白くもなさそうですから、
あきらめて他の遊びに移っていったような気がします。
母が中学時代、
友達が高校受験をするのに、
受験しない生徒は早く学校から帰らなければなりませんでした。
受験生は居残って受験勉強です。
そのことを数年前に母から聞きました。
そのときは思いませんでしたが、
鬼灯を鳴らしながら帰宅する母の姿が、
この頃ありありと目に浮かんできます。

写真は、なるちゃん提供。

 鬼灯を鳴らしし母の貧悲し

遠因

 

 杉木立秋の気配を湛えをり

クジラの声を現地録音したCDを、
繰り返し聴いていた時期がありました。
ジャケットを確かめたら、
1991年とありますから、
二十年前ということになります。
憔悴したわたしは、
人間が作り出す音が耳に障って受け付けず、
ただクジラの声を友とし、
クジラの声に慰められて眠りにつきました。
小関与四郎さんのスタジオでクジラの写真を見せていただき、
そのときは気づきませんでしたが、
意識の底の潜行する悲しみと響き合い、
わたしに深く印象付けられたのだったかと、
このごろ思い至りました。
クジラの声は遥か遠くにまで及び、
三頭いれば地球一周するという話を聞いたことがあります。
となれば、写真集の企画は、
わたしが言いだしっぺではありますが、
元をただせば、わたしではないことになります。

 現れて照れて帰るか竈馬

カマドウマ

 

 空蝉や時を抱へて光りをり

漢字で書くと、竈馬。別名便所コオロギ。
秋田では見たことがなく、
仙台で暮らすようになり初めて見たときは、
ぶったまげました。
背中の曲がり具合がはんぱじゃなく、
そこに力の全てを充填しているようで、
そのジャンプ力の爆発たるや並大抵ではありません。
下呂温泉湯之島館のカフェテラス樹庭にて、
朝早く、
他に客はなく、
一人静かにコーヒーを飲み外の景色に見とれていると、
足下の影が微かに動いたようで、
見遣れば、
大ぶりのカマドウマが
触覚をワラワラ動かしているのでした。
デ、デカ!!
スリッパを履いた足先をそうっと近づけると、
触覚をさらに激しく動かし、
いよいよ跳ぶかと思いきや、
ゆっくりと回れ右して暗い細い隙間に入り込んでいきました。
ほっ!
寝起きで跳ねる気がなかったか?
おかげでこちらは眼が覚めました。

 杉木立ツィプレッセンの九月かな

十月の講演会

 

 ふるさとの稲刈りの月始まれり

今月、来月と講演会が続きます。
三本は秋田が会場ですが、一本は横浜です。
神奈川県立図書館主催のものが昨日アップされましたので、
お知らせします。
「文字・活字文化の日記念講演
活字文化の今後~春風社を事例として~」
会社創業から現在に至るまでを踏まえ、
何が見えてきたのか、
今後、どういうことが予測されるのか、
一出版人として今考えていることを
披瀝させていただきたいと思います。
申し込みが必要のようですので、
こちらにリンクを張っておきます。
お近くで興味をお持ちの方は、
どうぞお気軽にお越しください。
日時:2011年10月22日(土)14~16時
場所:生涯学習情報センター「研修室」

 台風の数が減ったの何でかな

頑張れ!ふるさと石巻 9

 

6月13日、横浜屋の解体が始まった。北上川河口より約1・5キロほどの右岸河岸から西の羽黒山麓の寿福寺門前近くまで、九間道路に沿い300メートルほどの街並みがつづく。横浜屋は中間の南側に位置し、店は北向きである。大津波は、はじめは60センチくらい。第二波からは3~4メートルにもなって何度も水が駆け抜けたという。一階は完全水没。商売道具は流され、残った器具も塩害で使用不能。店は痛みが激しい。横浜屋の解体は近隣第1号であり、まるで歯が抜けたようだ。
70年続いた「とうみぎ・トウモロコシ」「枝豆」「さつまいも」「栗」の煮蒸かし家業、3年前にはじめた「石巻焼きそば」も休業。
「横浜屋さんすか!とうみぎ、やってんのすか」「豆やってんのすか」のお客さんに携帯でお断りする次第。「ああそすか。こどす(今年)はダメすか」
季節が来ると、とうみぎ、豆の茹であがりの匂いがたまらない。ハーモニカのように口から離さず噛むとうみぎの美味さ、唇にあてて両手の親指と人差し指で口の中に弾く枝豆のー発目の絶妙な塩っ気、もう噛むのが止まらない。殻はどんぶりに山盛りいっぱい。
現在、横浜屋夫婦は避難所暮らし6カ月。秋には、倉庫を改造して「石巻焼きそば」を始めたいと頑張っています。商人は商売が本分。
(現在、横浜屋は中古焼きそば鉄板と都市ガス用ガスコンロ、直径30センチ釜2個、厚い木蓋2個、ガスコンロ2個など求めています。ご不用の方がおられましたらお譲りください。よろしくお願いします。
連絡先:080-1818-8460 横浜屋の敏江ちゃん)

塊と魂

 

 セプテンバーレインといえば裕美かな

出社後チェックするブログがいくつかありまして、
そのうちの一つを見ていたら、
「1万人以上の人の魂をしばらくぶりに見て」とあり、
目を疑い、
そんなことはあるまいと思って、
グッとパソコン画面に近づき改めて読み直すと、
「1万人以上の人の魂」でなく、
「1万人以上の人の塊」でした。
ああ、びっくりした。
野球場に幽霊がひしめきあっている図が想像され、
どいうこと? どいうこと?
と、焦った次第です。
ちなみに魂を白川静の『字統』で引くと、
「云(うん)と鬼とに従う。云は雲の初文で雲気の象。
魂は雲気となって浮遊すると考えられていたのであろう。」
とありますから、
魂から幽霊を連想したのは、
あながち間違いでもないようですが、
「塊」を「魂」と間違えるようなことが、このごろ多くなりました。

 台風の進路逸れよと念送る