楽しむ者

 

 八街や青空の下草茂り

『クジラ解体』の写真家・小関与四郎さんから
お借りしていた原稿をお返しに、
スタジオのある横芝へ行ってきました。
小説の原稿で四百字詰め原稿用紙にして五三〇枚!
読むのにも時間がかかりましたが、
半分を過ぎた頃からぐいぐい引き込まれ、
最後は涙なしには読めませんでした。
最近の、よく言えばグローバル、
けちをつければ、
どこの国のどういう生活に根ざした話なのか分からない、
頭でっかちの、
つるんとしたファストフードのような小説ではありません。
小関さんはこれを、三十年ほど前に書き起こし、
これまで四度書き直したそうです。
骨太の深い小説です。
読みながら、
表現者として生きてこられた小関さんの人生に思いを馳せ、
宮本常一『忘れられた日本人』中の「土佐源氏」、
ショーロホフ『静かなドン』を思い浮かべたりもしました。
帰宅後、テレビをつけたら、
「たけし☆アートビート」をやっていました。
ピアニストの辻井伸行さんとの即興のコラボは、
うきうきとした楽しさがこちらに伝わってくるようでした。
小関さんの小説のことをずっと考えていましたから、
なおさら二人の姿に魅せられたのかもしれません。
子の曰わく、これを知る者はこれを好む者に如かず。
これを好む者はこれを楽しむ者に如かず。
『論語』の言葉を思い出しました。
「楽」の中身が大事だと思いますが、
まこと「楽しむ者に如かず」と合点が行きました。

 九十九里入道雲の立つを見ゆ