頑張れ!ふるさと石巻 8

 

5月6日。午後6時LEDの灯る、中央二丁目の「八幡屋」さんにRIP(リバイバル石巻プロジェクト)の有志が集まった。
口火を切ったのは、京屋呉服店の恵英(よしひで)さん。
「おらいの駐車場にセブンイレブンがバンで出張店を出したのっしゃ。孫の手をひいたおばあさんが寄ってきてねぇ、売りものだと分かると離れて行ったのっしゃ。支援物資と勘違いしたのか、これではヤバイぞと思った」
お互いを慮りつつも熱の篭った意見が交わされた。それぞれの商いができない今、資金を持ち寄って一つの商品を作って販売しよう! そこから立ち上がろうということになった。近くの中瀬に「石ノ森章太郎・石巻漫画館」があるが、漫画のご縁からおよそ1ヶ月、紺地に白で描かれた「釣りキチ三平」に「北上川みんなの力をひとつに」のメッセージを染めあげた見事なポロシャツ、Tシャツ、手ぬぐいができあがった。さっそく大好評発売中です。
(ポロシャツ3800円、Tシャツ2800円、手ぬぐい1200円)

お問い合わせ 〒986_0822 石巻市中央2-7-10 京屋呉服店 奥村恵英 fax 0225-22-0727  携帯 090-8613-1143

 

頑張れ!ふるさと石巻 7

 

4月22日、石巻市魚町(さかなまち)は一大水産業の町。
3・11大震災のため、総計4万6千トンものマグロ、 ヒラメ、イカなどの高級冷凍魚の廃棄をせまられた。
当座1万3千トンを、金華山沖90キロメートル、水深3800メートルの海域に廃棄。
この日、小雨降るなかで巨大な冷凍庫から、ブルドーザーで運ばれてくる魚の包み紙を黙々と剥く人びと。鬼気迫る空気に、言葉などかけられたものではなかった。(橋本)

ひどい言われよう

 

 夏の朝ビッグサイトに人が這い

三十年ぶりで『源氏物語』を少しずつ読んでいます。
三十年前、読んでやるぞと気色ばんで始めたのですが、
勢いだけで、「読む」まではなかなかいかなかった気がします。
せいぜい、文字を目で追ったぐらい。
今回はどうでしょうか。
山岸徳平校注による
「ワイド版岩波文庫」で読んでいますから、
本文の文字が大きく、
注の数が最低限に抑えられ、
面倒臭くなくて気に入っています。
注の文字が小さいのは仕方ありません。
これが全集ものだと、
本文の上にも下にも横にも巻末にも注があったりして、
それだけでうんざりしてしまいます。
あるとやっぱり読んでしまいますし。
さて『源氏物語』には、
鼻の大きな末摘花という娘さんが登場しますが、
紫式部からひどい言われようをされています。
「普賢菩薩の乗物とおぼゆ」っていうんですから。
それほどデカイと。
なんぼなんでも、そんなことはないでしょう。
しかも、赤く色付いている。
ところで、この「普賢菩薩」に注が付されており、
山岸徳平先生の記述が奮っている。
注というのは、
一度読んだらだいたい読み返すことはないのですが、
この注だけは、読むたびに笑ってしまって、
注だと思うと余計に可笑しくなり、
山岸先生のお人柄が彷彿となり、
楽しくなってきます。
さて、その注ですが、
どんなのかというと、こんなのです。
「普賢菩薩は、釈迦の右に侍し、白象に乗っている、一切の理徳の仏。白象の鼻は、赤いこと、紅蓮華の色の如くであるという。鼻の赤くなるのは、飲酒者など、毛細血管の拡張による充血の場合もあるが、末摘花の鼻の如きは、卵巣障害による内分泌機能故障のために、自然に誘発せられたものである。」
山岸先生、白象ならぬ普賢菩薩に悪乗りしているとしか思えない。
いずれにしろ末摘花さん、ひどい言われようです。

 元気よく蓋押さえつけ泥鰌鍋

浮き

 

 夏の朝机上蟻蟻蟻が這い

今月三日、新幹線で秋田へ向かう車中でのこと。
わたしは通路側の席でしたが、
通路を挟んだ隣に、
襟高の白いシャツ、折り目正しい黒のズボンを身につけ、
ピカピカに磨いた黒い靴を履いた
色白の男性が窓際に座っていました。
男性の横、つまりわたしのすぐ隣のシートには、
黒のダレスバッグが鎮座しています。
男性は耳にイヤホンをつけ、手に文庫本を持ち、
ケータイは窓の縁へ、ペンケースと縦に並べて置いています。
男性とわたしは、車輌の後ろから二番目のシートでした。
一番後ろは三席しかなく、
男性の後ろのシートはどういうわけか、
一人掛けの座席になっています。
ドアの近くなので、
スペースを確保する意味でもあるのでしょうか。
発車数分前のこと、
初老の男が、連れの家族を離れこちらにやって来ます。
空いている一人掛けの座席に座ろうとして、
手を前のシートの背にかけたため、
シートが少し揺れました。
くだんの男性は、ちょっと後ろを振り向く風情で、
あからさまに嫌な顔をしました。
車掌が来た折に初老の男は、
他の客が来たら、自分の席に戻るからと車掌に告げ、
一人掛けのシートを確保してしまいました。
色白の男性はその話に耳を傾けていたのか、
チッと鋭く舌を鳴らしました。
イヤホンはいつの間にか耳から外れています。
十二時五十六分、
新幹線は時刻どおり発車しました。
わたしは、持って来た文庫本を開き、目を落としました。
十数ページ進んだ頃、
男の子が「おじいちゃん」と叫びながら通路を駆けて来、
初老の男の膝に乗りました。
色白の男性は露骨に嫌な顔をし、
今度ははっきりと体を後ろに向け、
抗議の気持ちを言葉でなく男に伝えたようでした。
男は孫に、
うるさくしては駄目だよと申し訳程度に耳打ちしています。
しばらく遊んで飽きたのか、
男の子は祖父の膝を下り、
タタタタタ…と車輌中ほどの自分の席に帰っていきました。
男性は、魚にからかわれる浮きのように、
なかなか落ち着くことができません。
と、
また男の子が「おじいちゃん」と叫んで走ってきました。
さっきよりもテンションが上がっています。
新幹線の旅に飽きたのかもしれません。
勢いのまま男の膝に上がろうとしましたから、
前のシートの背にぶつかり、ちょっと鈍い音がしました。
色白の男性の顔には紅い斑点が浮き出し、
立って後ろを振り向いたかと思うと、
一言「なにしてんだよううううううっっ!!!!!」
男は男性に謝りもせず、
歯向かうでもなく、
だまって孫を抱え、元の席に帰っていきました。
魚は離れてしまったのか、
浮きはもうピクリと揺れることもありませんでした。

 いそいそと野毛坂下りて泥鰌鍋

センチメンタル・ジャーニー

 

 観音の鋏ジョキジョキ夏の雨

この三日から五日まで秋田に帰っていました。
充実した三日間で、
一週間を圧縮して動いた気がします。
お目にかかった方々が、
貴重な時間を割いてくださり、
本に書いていないあれこれを教えてくださいました。
見せてくださいました。
九月三十日の講演にかかわる企画を推し進めてくださったり。
実り多き秋田行でしたから、
五日朝、
井川さくら駅七時十四分発秋田行き電車に乗ってからも、
手帳を開き、
思いついたことを追いかけるように、
次つぎメモしていきました。
気づかぬうちに二駅も過ぎていました。
ふと見ると、
目の前に女子学生が立ってケータイに見入っています。
聖霊女子短期大学付属高校の制服です。
あこがれの人もこの制服を着ていたのだったな。
ああ、あれから幾星霜。
月日は百代の過客か。
ふ。
我知らず、自ずからしみじみしてまいります。
と、
ん、ん、
あれ、あれ、なみだ、なみだ、涙。
目の前の紺色の制服の女子学生の左目から涙が伝わり、
頬を濡らしているではありませんか。
ぬぐおうともしません。
ケータイでメールの打ち込みに余念がありません。
そうか。別れたのか。
こんな可愛い娘に涙を流させるなんて…。
でも、きっとまたこれからいい彼氏が見つかるさ。
泣け泣け、泣きたいときには泣くがいい。
と、
ん、ん、
あれ、あれ、なみだ、なみだ、涙、もう一粒。
今度は目の上から!
ん!?
なんで目の上から…?
は。
は。
あはははは。あはははは。
馬鹿だ。
俺は馬鹿だ。
しみじみした感傷が一気にシュールな笑いに移行するのを、
わたしはどうすることもできませんでした。
今度は女子学生の右目の上からも涙がこぼれてきます。
目の上からこぼれる涙。
人はそれを汗と呼ぶ。

 御神体拝し晴れゆく驟雨かな

歯ぐき

 

 逆上がり教へビールの五十三

マンションの大規模修繕がだいぶ進み、
今月半ばには予定通り完了しそうです。
ベランダの防水工事のため、
エアコンの室外機を空中に浮かしたり、
炎暑の中、
職人さんたちは大変です。
ポカリスエットを人数分差し上げたら、
とても喜んでくれました。
ところで、
防水塗装が施されたベランダを見ていたら、
なんとなく見入ってしまいました。
つやつやして水をはじき、
程よい弾力性があって、ぼてっと厚い。
リンゴをかじると…、
歯ぐきだ。
歯ぐきに似ている!
んー、歯ぐきか。
ベランダが灰色の歯ぐきに覆われたような、
変な気分です。
閑話休題。
今日は日曜日ですが、
これから秋田へ行ってきます。
明日、
母校井川中学校で先輩の講演を聴き、
その前に井内神社、井川町役場、
その後、秋田魁新報社、秋田放送局を訪ねることになっています。
というわけで、
月曜日と火曜日は「よもやま日記」を休みます。

 広島風お好み焼きにビールかな

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写真集『クジラ解体』

 

 汗みずく東海道線走りたり

念願の写真集『クジラ解体』が完成しました。
ページを繰るたび、見入ってしまいます。
「解剖さん」と呼ばれる人たちが、小山のようなクジラを、
無駄なく解体していきます。その動きに隙はありません。
巻末には捕鯨を取り巻く情勢についての、
小関新人さんによる丁寧な解説が付されており、
写真集を立体的なものにしてくれています。
クジラについて物言うことは、
なかなか微妙な問題を含んでいる中、
勇気づけられる推薦文を多くの方からいただきました。
今年亡くなった脚本家の大野靖子さんは、
写真家の小関与四郎さんを書きたい、
書かせて欲しいと本人に語ったそうです。
その意味が少し分かりかけてきました。
人間は誰も矛盾に満ちた存在ですが、
それを隠そうとするところから無理が生じます。
小関さんは、
人間存在の根底を眼を瞑らずに写してきました。
『九十九里浜』も今回の写真集も、
いわば人間の「はだか」を捉えた写真集です。
そこには体当たりの、
命がけの覚悟がみなぎっています。
いっしょに仕事をできたことを誇りに感じます。
この写真集の本質を見抜き、
共同通信社の石塚記者が記事にしてくださいました。
写真集完成の前日に配信され、
数紙ですでに掲載されたようです。
信濃毎日新聞に掲載されたものがコレです。

 白い歯を残し全身汗だらけ

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