養命酒

 

 起きそうそで何も起きない夏休み

家人が養命酒を買ってきてくれたので、
夜、付属の小さなコップで一杯飲んでいます。
慣れないので、忘れることもありますが、
味はなかなかよろしい。
でも、味で飲むものではないのでしょう。
だって養命酒ですから。
亡くなった祖母が、
皺の寄った口元をさらに寄せ、
よく飲んでいました。
先日バウムクーヘン一本丸ごと食べて奥さんに怒られた
正紀叔父さんが祖母に買ってあげたものでした。
けっこう長く飲んでいましたから、
定期的に買ってあげていたのかもしれません。
そんなことを思い出しながら、ちょびと。
付属のコップが小さいので、
どうしても口元を寄せざるを得ない。
ついいたずら心が起きて腰まで曲げると、
祖母の心に同化していくような具合です。
「食え食え」
「要らね」
「なして食わねて。食え食え」
「要らねて。腹いっぱいだは」
「なんでも要らね要らね。食えて」
「要らねてば」
何度繰り返したか分からぬ祖母との会話。
この頃、祖母の心を想像して切なくなります。

 しょっぱくてざらり真夏の女かな

ブッダ

 

 絵日記が大の苦手の夏休み

NHKスペシャルとして放送された「ブッダ 大いなる旅路」(全五回)
を録画ビデオテープで持っているので、
この連休期間中、久しぶりにまとめて見ましたが、
面白かったです。
リアルタイムで見たのを入れ、四度目。
音楽:中村幸代
語り:道傅愛子
朗読:仲代達矢
音楽も語りも朗読も、
しみじみ胸にこたえてどれもいい。
道傅さんは「どうでん」と読むんですね。
どうでんあいこ。強そう。
どうでん、大したもんだろう、みたいな感じ。
それはともかく。
放送日は、一九九八年の四月から八月ということですから、
春風社を起こす前の年ということになります。
もっと前の放送かと思っていました。
記憶は当てになりません。
今は、DVDになってアマゾンでも売っているようです。
ところで、
十七日(日)、神奈川新聞に写真集『クジラ解体』の
紹介記事(共同通信社配信)が載ったことを、
小料理千成の大将が電話で教えてくれました。
「載ってるぞー!」
教えてくれただけでなく、
新聞を買って、バイクでわざわざ届けにきてくれました。
代金を払おうとしたのですが、
いいから、いいからと言って受け取りませんでした。
たった今、秋田の父から電話。
秋田魁新報にも本日、同記事が掲載されたそうです。
「読むが?」と父。
「要らない要らない。知ってるがら」
「ん!? なんで知ってるんだ? まだ見でねべ」
「それは共同通信社からの配信記事というもので、○×△@♂♀#%&*¥℃※■◎±∞」
「そんだらごど言われでも分がらね。つまり、読まねてもええのだな」
「そう。読まねてもええ」

 カブトムシ持って男子は強くなる

馬なみ

 

 草刈りし丘の匂ひの懐かしき

暑い日がつづきます。
やりきれません。
仕事がありますから、そうも言ってられませんが。
寒さをこらえてセーターを編む歌がありましたが、
暑さをこらえて一日過ごすと、
眠くなります。
昨日は気功教室の日でした。
十回コースの最終日。眠かったー!!
意念をめぐらすという難しいレッスンで、
体の動きを極力抑え、
意念の動きに集中しなければいけないのですが、
眼を閉じてするものですから、
気持ちよくなり、
先生の声が遠のいて、
立ったままスーッと眠りの世界に入ってしまいます。
ハッとしてグーではいけないと我が身を奮い立たせるのですが、
やがてまたスーッと。
体が疲れているようです。

 酷暑にて遠くまでは行けません

古語辞典

 

 本の中同じ感情見つけたり

『源氏物語』を勉強でなくどれだけ読めるかと思って、
朝読んでいますが、
類推で読み飛ばすには危ない箇所がいくつも現れ、
会社に置いていた古語辞典を家に持って帰りました。
高校に入ってすぐ買ったものです。
ページをめくると、
「あはれ」の説明文に線を引いたりしています。
佐伯梅友、馬淵和夫共編。発行元は講談社。
ぱらぱらとページを行きつ戻りつし、
なにげなく「序」を読み、
ぶっ飛びました。
「アメリカを旅する者は、まずその大自然の壮大さに驚かされる。」
ふむ。何かあるな。
ついつい最後まで読んでしまいました。
なるほど、
そういう気持ちで、志で、
この辞書を編んだのだったか。
辞書は読むというより使うものですから、
「序」なんて読まずに今まで来てしまいました。
新しい辞書を買わずに、むしろよかった。
この辞書を傍に置いて、
源氏を読了したいと思います。

 炎天を顔を顰めて突き抜けり

気持ち

 

 幼子を乗せてテーブル笑ひけり

梅雨が明けたと思ったら、
待ってましたとばかりに連日猛暑酷暑。
まいります。
昼、太宗庵へ行きました。
混んできたときのことを考え、
二人掛けのテーブルに向かい、
背中をドアのほうにして座りました。
ここだとテレビがよく見えます。
板わさとわかめうどん定食を頼みました。
板わさのほうが先に出来てきましたから
(そりゃそうです、切るだけですから)、
切り身を箸で持ち、
角をわさび醤油にちょいと浸して口中へ。
味わって食べているうちに女将さんが定食を運んできました。
お待ち遠さま。
いえ、どういたしまして。
いただきます。
半熟の温泉卵は適当にほぐし、醤油と混ぜてご飯にかけます。
わかめうどんの刻み生姜と柚子の香りが食欲をそそります。
店内は、いよいよ混んできました。
靴を脱いで席に着く六人掛けのテーブルには、
男六人が相席で肩を四角く寄せています。
空いているのは、わたしの前の椅子だけ。
「いらっしゃいませえ。相席でお願いしまあす」
大将が厨房から声をかけます。
さて、どんな人だろう。
振り返って見るのは、さすがにはばかられます。
一つ空いてる席に、来るか来ないか。
腹八分目にして、ごはんが少し残っているけど、
もう帰ろうかな。
と、
わたしの左横を通って目の前に腰掛けたのは、
髪の長い若く美しい女性でした。
一瞬、目を瞠りました。
女性は、細打ちうどん大盛りゴマダレを頼みました。
バッグからハンカチを取り出し、
うなじの汗を拭き取りました。
わたしは、
腹八分目を即座にやめ、腹いっぱい完食し、
いつもならあまり飲まないお茶までゆっくりすすって、
それから徐に席を立ちました。

 幼子やしゃちほこのごと仰け反れり

迷わずに

 

 電柱の影に隠れてバスを待つ

地図を持たずに神奈川大学に行ってきました。
これまで何度も足を運び、
ついに、目的の校舎と、
先生の研究室のある場所を覚えました。
気持ちいい!
迷わないことの気持ちよさを久しぶりに味わいました。
ふだん迷いながら生きていますから、なんて。
たとえば、細かいことですが、
右下の奥歯を磨く回数とか、
目に付いた三メートル先の埃を今拾うべきか、
後から拾うべきか、
暑いから、
ボブ・マーリーにしようか村田英雄にしようか、
椎名林檎にしようかビョークにしようか、
トマトにしようかキュウリにしようか、
けっこう悩ましい。
なんとなく習慣で行動していますが、
考えてみると、
ちょくちょく迷っては、
そのつど少し落ち、電気が走ります。
落ち込まぬように、えいとジャンプします。

写真は、なるちゃん提供。
なるちゃんが自ら植え、手塩にかけて育てた野菜。

 アスファルト陽に照らされて湯気立てり

被災したふるさとを撮る

 

 梅雨明けを合格気分で味はへり

この日記に「頑張れ!ふるさと石巻」を、
不定期で連載していますが(一昨日と昨日、7、8を掲載)、
そのことが「石巻かほく」紙に大きく取り上げられました。
コレです。
東日本大震災から今日で四か月。
何が変わって何が変わらないのか。
表現者は表現を、
生活者は生活を、
学者は学問を根本から洗い直し、
吟味する必要があるのでしょう。
そのことによって垂直に穴が開き、
上と下の天を迎え、ふるえ、
人とつながることができる気がします。
何のために生きるのか、
与えられた試練を旅ととらえ、
発見に継ぐ発見をリレーしていくつもりです。

 カモノハシではござらん黄金虫