そういう季節

 

 床恋し一人ぽっちの夢の中

愛ちゃんに教えてもらった漫画、
QBB(久住昌之・久住卓也)の『とうとうロボが来た!』が
めっぽう面白かったので、
同じコンビの『中学生日記』をネットで買いました。
古書1円で出ていました。
各章の扉にサブタイトルみたいに、
「一生で一番ダサイ季節」と書かれています。
だから輝いていた、ということでもありましょう。
まだ途中ですが、
涙を流しながら読んでいます。
やったやった、おれもやった!!
いたいた、こんな奴!!
爆笑する度、家人がギロッと睨みます。
たとえばサイン。
皆さんは、やりませんでしたか?
クラスの誰かから始めて、
それが仏教の伝来のように次第に伝播し、
とうとう自分のところまでやってきて、
ノートにやたら芸能人のように
よく分からない崩し字を書き散らしました。
一つ二つはかっこよく決まって、
ん、これいいじゃん! みたいに思ったり。
たとえば、
たしかによく分からない、
そういう季節でした。

 泣き笑い親しき人と別れけり

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指紋

 

 かじかみて片手ケータイ滑り落つ

このごろよく物を落とします。
グラス。ケータイ。文庫本。
とくに握力が減退したわけでもなさそうなのに、
ポロッ。ツルッ。
握力のせいではなく、
(多少はあるかもしれません)
指紋が磨耗したことにどうも原因がありそうです。
それと水分保有量。
子どもの頃、
手のひらも指も、
もっとふわふわしっとりしていました。
それがいつの間にか、
かさかさぺろりになっています。
指と指を合わせてこすると、
公園の枯葉が風に運ばれる時のような音を立てます。
歳をとることはしょっぱくなることだ、
と名言を記したのはしりあがり寿さんだったかな。
たしか彼の漫画にあったような。
このごろ自分がしょっぱくなっているような気がします。

 息白し七度以下だと友が言ひ

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電池の時計!?

 

 酷寒を過ごす一日腹が減り

会社を起こす前、
気持ちを奮い立たせるためを口実に、
失業保険でブルガリの腕時計を買いました。
その電池がとうとう切れたらしく、
針が動かなくなりました。
一九九九年に買って一度も電池を交換していませんから、
大したものです。
時間もほとんど狂わず、
正確に時を刻んでくれました。
先だって、時計を買った店へ出向きました。
ビルの上階だったと記憶していたので、
エスカレーターに乗りました。
下りたフロアを横切り、またエスカレーターに乗ります。
ちょうど店員さんがいたので、
声を掛けました。
「電池の時計を交換したいのですが、何階ですか?」
店員は、くすっと笑ったようでした。
「電池交換なら六階です」
「そうですか。ありがとうございます」
十二年間もよくぞ正確に時を刻んだものと、
そんなことを考えていたせいか、
「時計の電池」と言うべきところを
なぜか「電池の時計」と言ってしまいました。
それに店員さんは気づいたのでしょう。
わたしも可笑しくなって、
一人笑いながら、
次のエスカレーターに乗りました。

 くっきりと曇らぬ月の寒々し

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温美さんのこと

 

 みちのくの雪の国より友来り

秋田から温美さんと睦子さんが遊びに来てくれた。
劇団四季の「マンマ・ミーア!」を見がてら、
横浜まで足を伸ばしてくれたのだ。
温美さんとは、小学一年からの同期生。
温美と書いて、はるみ。
わたしが通った小学校は二クラスしかなく、
六年間、温美さんとずっと同じクラスだった。
睦子さんとは、中学一年からの同期生。
中学一年のときは席が隣同士。
彼女はバスケットボール部。
わたしは最初野球部に入ったが、
先輩からバットでケツを殴られたことがきっかけですぐに辞め、
ブラスバンド部に転向した。
温美さんは、秋田市にある病院の事務の仕事を長くしており、
わたしの母は定期的にそこで診てもらっている。
病院嫌いの母は、
温美さんの笑顔のおかげで病院に行けると常々言っている。
昨年、温美さんのお母様が亡くなった。
それからしばらくしてわたしの母は、
薬をもらいに温美さんが勤める病院へ行った。
受付にいた温美さんはわたしの母を見つけ、
席を立って側に来た。
二人寄り添い、待合室から離れた。
母は温美さんに、「大変だったね」と言った。
母はそれしか言えなかったのだろう。
温美さんと母は抱き合って泣いた。
温美さんは、母を見るたび、
自分の母親を見るようだと言う。
わたしの記憶は、小学時代、
参観日に学校にいらした温美さんのお母様の姿に張り付く。
温美さんのお母様とわたしの母の名前は、
ともにレイコで同じである。

 友の眼に五十年を見てゐたり

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残念!

 

 偏頭痛飛ばせ冬日の気功かな

税金の年末調整のために税理士のK先生来社。
先生にお願いしてから10年を超え、
それもあってか気軽になんでも相談でき、
先生も、いろんな話をされてはよく笑います。
鍼灸にかかった費用は医療費に入るかと尋ねると、
鍼灸師の資格を持っていれば大丈夫、とのこと。
なるほど。
先生すかさず、
「でも、合計が10万円を超えないと還付されませんよ」
「むふふふふ。そう思って、鍼灸だけでなく、
医者や歯医者、家人の分の領収証まで持ってきましたよ。
ほら、この通り」
「それは結構。合計してみましたか?」とK先生。
「いや、まだです」
「合計してみてください」
「はい。パチパチパチパチパチ…(計算機の音)ん!?」
「どうですか?」
「90030円です」
「ははははは…。惜しい!残念!」
「ちくしょう。もう少しだったのに!」
「そんなものですよ。
大病でもしなければ、なかなか10万円は超えません」
「そうですか。なるほど」
「そう思って諦めるしかありません」
「はい」と素直なわたし。
残念でなかったのは、
新聞掲載が二つ重なったこと。有難し!
12日付け「秋田さきがけ新報」文化欄の拙文と、
14日付け(本日)「週刊読書人」の『父のふるさと』の紹介文。
「さきがけ」の金属活字を持っているのは、
この欄によく登場するりなちゃんです。

 初富士やビルと電線無からまし

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反則!?

 

 人類の星の時間の凍えたり

社内真ん中に据えられている
楠(くすのき)のテーブルを取り囲み、
近くで揃えたお惣菜をつまみ、
いただいた日本酒やワインに舌鼓を打っては、
正月どうやって過ごしたか、
また今年の抱負などを順繰りに話していきます。
弊社の新年会は、いつもそんな風です。
そのときの編集長ナイ2くんの話なのですが、
年末、妹さんから「ひろー(ナイ2くんの名前はひろし。
だから、ひろー。ちなみに、わたしはその真似がひどく上手い!
その真似があまりに上手すぎてナイ2くんは嫌がりますが。
それはともかく)去年一年間で何冊本を読んだ?」
ナイ2くん、読んだ本の冊数を答えたそうです。
すると、「わたしは96冊」と妹さん。
子育てをしながら月~金で働き、
よくそんなに読めるなとナイ2くんが感心すると、
休み時間とか寝る前とかに読んでいるのだと答えたそうです。
お兄ちゃんとしては負けられないと思ったようですが、
その話を聞きながら、わたしも驚きました。
年に96冊ということは月に8冊、週に2冊、三日で1冊ペースです。
すごい!!
その話を聞いてから、
なんだかそのことが気にかかり、
いろいろ考えていて、
はたと、いいことに気がつきました。
弊社の編集者は、一年間にほぼ10冊本を作ります。
ということは、10冊は必ず読むことになります。
しかも二度三度。
そうだそうだ、それも読んだ内だ。
それをナイ2くんに話しました。
するとナイ2くん、
「それって反則じゃないですか?」と言うから、
わたしは、反則じゃないよ役得だよ、
と答えました。
ぜひそのことを妹さんに話して欲しいと思います。
きっと妹さん、
「ひろー。それ反則だよ」と言うでしょう。
その言う様がありありと想像でき、
また真似したくなりました。

 眠たさや寒板張り付き偏頭痛

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最終講義

 

 ムシャクシャを抱きて歩く道寒し

お世話になっている先生から最終講義のご案内をいただき、
日本女子大学に行ってまいりました。
大教室にざっと百五十人ほどがいましたが、
男はわたしとテラチーと大学の先生でしょうか、三人のみ。
文学研究入門と題された講義で、
世界がグローバルに捉えられるようになった現在、
文学は、世界文学として人間を把握することに
ますますなっているという刺激的な内容で、
面白く拝聴しました。
椅子に座って講義を聴くというのを何十年ぶりかで体験し、
お尻がむず痒くもなりましたが、
久しぶりの愉しい時間を過ごしました。

 凍りつく心に絵文字の輝けり

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