爪楊爺

 

 本届け夜のネオンの師走かな

昼に食べに行く店で必ず会う爺さんがいます。
わたしは不定期に、
週一ぐらいのペースで行きますが、
爺さんはどうも毎日行っているようです。
いつも同じカウンターの端っこに陣取り、
自分でグラスに水を入れて飲み、
手の届く距離にあるラックから
その日の新聞を取って読んでいます。
わたしはなるべく爺さんが視界に入らぬようにします。
なぜなら、
爺さんは恐るべき爪楊枝使いだからです。
歳をとって嫌なことのひとつに、
食事を終えた後で爪楊枝を使うことだと言った先輩がいました。
高校で教師をしていた時のことです。
その先輩は英語の教師でした。
白髪のきれいな、
紳士然とした大人しい人でした。
そんなものかなあと聞いていましたが、
わたしも、
いつの間にか爪楊枝を使う年齢になりました。
ところで、
くだんの爺さん、
食事を終えたとなると、
口を覆うことなく、
あからさまに、傍若無人に、
これでもかと言わんばかりに、
ぐいぐいぐいぐいぐいぐいぐいぐい、
しーはーし-はー言いながら、
歯の間をほじくります。
ほじくり返すといっても過言ではありません。
避けようとしても目に入ります。
たまりません。
すっかり食欲が失せてしまいます。
爺さんと背中合わせに座ればよさそうなものですが、
正直に言うと、
怖いもの見たさからか、
つい見てしまう、
見たくなる自分もいます。
こんなところにも、
人間の業が隠れているのでしょうか。
それはともかく、
わたしはこの爺さんのことを爪楊枝使いの爺さん、
爪楊爺(つまようじい)と呼ぶことにしました。

 赤羽の尺八消えし冬の月

101127_1142~0001