あはれ蚊

 

 蟷螂の三角面のかたぶきぬ

床屋に行ったら季節外れの蚊が一匹飛んでいました。
バリカンのブーンという音に消され、
羽音までは聞こえませんが、
たしかに飛んでいます。
床屋のご主人、
バリカンでわたしの頭を刈りながら、
片手で蚊を捕まえようとしますが、
季節外れのわりにはすばしっこく、
なかなか捕まりません。
わたしは椅子の上でジッとしたまま、
目で蚊とご主人の手の攻防を追いかけました。
途中、予約の電話が入ったりして、
一時休戦状態になり、
いつの間にか蚊は目の前から姿を消しました。
かと思いきや、
わたしの額上部左側にはたと停まりました。
もしやご主人?
まさか…。(汗)
と、
次の瞬間、
パチン!
あ!
あ!
つぶしましたか?
つぶしました。
ご主人、心なしか勝ち誇ったような物言いです。
それから、
あはれ蚊のことは一切話題にならず、
わたしは顔を剃ってもらい、
頭をシャンプーしてもらい、
お代を払って店を後にしました。

 蟷螂や片目ふさぎて顔洗ふ

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