ウジ

 

 夏風邪やそろそろ離れてよろしかろ

横浜駅の地下街に天龍というお寿司屋さんがあります。
小さいお店ですが、
わたしのこの頃のお気に入りです。
ご主人は、おそらく三十代でしょう。
ちゃんとしたお寿司屋さんで相当
修業を積んだものと思われます。
奥さんと母親らしき女性が手伝っています。
わたしは、あいさつと注文する以外、
話したことがありません。
まだ四度目でして。
きのうは、
わたしが入ったときは
先にお客が二人しかいませんでしたが、
すぐにいっぱいになりました。
ご主人も、わたしとはともかく、
なじみのお客さんらしき人とも、
ほとんど話をしません。
母親とおぼしき女性が、ちょっと声を掛けるぐらいです。
わたしは四度とも、入ってすぐのカウンターの
入口から二つ目の椅子に座りました。
若いご主人は、
カウンターでわたしが注文しても、
その前に注文された品があると、
それがお土産であっても、そちらを先にします。
悪い気はしません。
それが方針なのでしょう。
今日はお客さんも多いし、
そろそろ帰ろうかなと思ったちょうどその時、
母親らしき女性から、
「どうぞご注文なさってください」と
声を掛けられました。
わたしがおとなしく座っているのを
気遣ってくれたのでしょう。
「はい。ありがとうございます」
と答えたてまえ、
すぐに帰ることは憚られました。
「でもなあ。今日は客も混んでいるし。
きっと時間掛かるよなあ。しゃあないか」と心の声。
そして、わたしはご主人に向かって声を発しました。
「ウジください!」
気功教室の時間が刻々と迫ってきて、
我ながら焦っていたのでしょう。
ウニとアジを頼むつもりが、ごっちゃになって、
しかも、ウニの「ニ」とアジの「ア」が落ち、
「ウジ」になってしまいました。
わたしは自分の間違いにすぐ気づき、
「いえ。ウニとアジをください!」と訂正。
ご主人、にこりともせずに、
「ウニとアジですね。かしこまりました」
結局、
気功教室は大幅に遅刻してしまいました。

 入梅や人も天気も壊れけり

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