表現の道

 

 夜灯下に人なし梅雨の気配せり

佐々木幹郎さんの近著『旅に溺れる』の最後に、
お父様の話が出てきます。
九十一歳でお亡くなりになりましたが、
お父様の若いときの歌を佐々木さんがまとめ、
『夕まけて』というタイトルの歌集を編み、
ご命日に出版されたそうです。
お父様の節雄さんは若い頃、
前川佐美雄に師事されましたが、
思うところあって、
途中から絵の道に行かれました。
生前、歌集をまとめることについて佐々木さんに
相談なさったことがあったそうですが、
佐々木さんは同意しませんでした。
その辺のところは、
読んでいて、胸に迫ってきます。
愛情こまやかな文章を読みながら、
この頃よく思う、
三代百年のことがまた脳裏をかすめました。
というのは、
言うまでもなく佐々木さんは厳しい表現の道で
ずっと精進してこられ、
詩人として名を成しておられますが、
『旅に溺れる』を読み、
お父様も表現の道で生きておられた方だと
初めて知ったからです。
わたしの周りを眺めても、
写真家の橋本照嵩さん、
画家・デザイナーの矢萩多聞さん、
映画監督の大嶋拓さん、それぞれ、
ご両親、祖父母の代から何らか表現の道をこころざし、
表現していた、していることが分かります。
表現の道は厳しく、
いのちを刻むような行為かもしれませんが、
それだけに、
三代百年の道の今日と思うことも大切なのではないか。
そんなことを思いました。

 黴避けて四十五度の風呂に入る

100605_2047~0001