ガス漏れ!?

 

 首筋のハンカチあてる五月かな

きのうのことです。
大量に作ったカレーに
トマトを投入してみようと思い立ち、
散歩がてら、いそいそと外へ出てみました。
気持ちのいい季節になりました。
石の階段をゆっくり下りてゆきましたら、
八百屋のおばちゃんがお客さんと立ち話をしています。
おばちゃんとは、
ほとんど毎日あいさつを交わすのですが、
買い物をしたいときに
開いていることが少ないこともあって、
めったに買いません。
今日はいいチャンスです。
「トマト、ありますか?」
「あるよ。Sサイズだけど…」
おばちゃんは、山形県出身の方で、
齢七十をとっくに過ぎていると思われますが、
とても元気で、一人で八百屋を切り盛りしています。
「ウチのは割高だけど、美味しいからと言って、
みんな買ってってくれるんだよ。
えらいねー。あんた、自分でつくるんかね。
ところで、千成さんへは…」などと、
話好きのおばちゃんがゆっくり話していたとき、
不意におばちゃんの話が止まりました。
そしておばちゃんは、言いました。
「聞いたかい? 今のガス漏れみたいな音」
「ええ」
確かに。プシュー、プシューと、
妙な破裂音がしました。
「あの人、歩きながらオナラをしたんだね」
「そのようですね」
見れば、中年の男性が、トレーナーを脱いで首に巻きつけ、
ゆっくり大股で歩いてゆきます。
「面白いね」
「ええ」
おばちゃんの話は悠揚たるものがあり、
なんだか堂々としています。
わたしはうれしくなり、
トマト五個を買って、また石の階段を上りました。

 菜の花や寒風山のふもとまで

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