風まかせトーク

 

 まず折りてずるっと吸ひたしずわい蟹

ええ、突然ですが、今度の日曜日、
横浜メディア研究会主催のトークイベントに
講師として招かれました。
テーマは、「『が好き! ~出版は風まかせ~」です。
本の好さの再発見とこれからの本づくりでなにを目指すのか、
しゃべることになりました。ありがたいことです。
横浜メディア研究会のブログに案内がでていますので、
興味のある方は、ここをクリックして見てください。
18日に行われるイベントの案内の下にあります。
参加費無料とのことですし、
むずかしいことはしゃべりません(しゃべれません)ので、
どうぞお気軽にお越しください。

日 時】12月20日(日) 14時00分~16時00分
     (13時40分受付開始)
会 場】ZAIM本館1F交流サロン
      (横浜市中区日本大通34)
      MM線日本大通り駅から徒歩3分、
      JR関内駅、横浜市営地下鉄関内駅から徒歩5分
参加費】無料
主  催】横浜メディア研究会

 食ふ前にまなこで味はふ海鼠かな(ダジャレかよ)

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文字絵

 

 息白し天に高々お月さま

家人の姪っ子のさきちゃんは絵が得意。
明るい元気のでる絵をときどき送ってくれます。
下の絵が、今回送ってくれたものです。
笹かまで有名な仙台の鐘崎の包装紙に描かれている
伊達政宗公を真似て描いたらしく、
鐘崎さんには申し訳ありませんが、
さきちゃんの政宗公のほうが、なんか武士らしく、
のびのびして威厳があります。
さて、さきちゃん、ノッてきたとみえて、
小学一年ではまだ習わぬ漢字も真似て描いてみた。
ところが、漢字はさすがにイメージが湧かなかったのか、
(それはそうでしょう。ひとつの漢字ができた元々まで
さかのぼって形を理解するならともかく、
おとながするように、国語辞書的な意味で満足することを
まだ覚えていないのですから)途中まで描いて
飽きてしまったようです。
「食」の途中で切れています。
さきちゃんのママは、
ふつうなら、最後まで書きなさいというところを、
そうしないで、さきちゃんらしいから、ま、いっか、
と思ったとのことですが、
なるほどと思いました。
わたしも、さきちゃんの漢字の描きっぷりから、
いろんなことを思って、面白かった。
例えば、白川静さんが発見した、「道」という漢字になぜ
首がつかわれているのかという疑問の原形質みたいなものを、
さきちゃんの文字絵を見ていて感じました。

 年賀状言葉浮かばず宛名のみ

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沈黙の言葉

 

 ハダハダに塩ふり炙る師走かな

言葉でないもの、言葉をもたないものを言葉にする。
冗舌はばかる世にあって、
詩の言葉がいま、ここにあらわしてきたものは、
沈黙するものの密かな言葉でした。
詩の言葉は、言葉に翻訳された沈黙です。
ともすれば人間はじぶんを
世界の主人公のように思いなしがちですが、
人間は言葉のなかに生まれるにすぎず、
言葉は言葉よりもおおきな沈黙のなかにあるにすぎません。

上の言葉は、長田弘さんの『本という不思議』(みすず書房)
にでてくる言葉です。
そのあとにつづく、長田さんが紹介している
ブラジルの詩人ジョアオン・カブラル・ジ・メロ・ネトの
「石にまなぶ」という詩(ナヲエ・タケイ・ダ・シルバ訳)も
素敵なのですが、引用が長くなりますので、
興味のある方は、長田さんの本を読んでみてください。
長田さんがいうように、
本はたしかに、沈黙を媒介にした友人です。
たとえば、北川太一さんの『高村光太郎を語る』を読むと、
高村さんがいかに沈黙を翻訳した言葉を
詩にしてくれたかがわかります。
北川さんは、『高村光太郎全集』を編集なさった方ですが、
わたしが『新井奥邃著作集』を編集しているとき、
大事な仕事ですから、がんばって完結してくださいと、
ありがたい励ましの言葉を何度もいただきました。
どんなに勇気づけられたことでしょう。
『新井奥邃著作集』に入っている語録は、
北川さんがことあるごとに古書店で見つけた
奥邃の「語録」本体を見せていただくことがなければ、
収録がかなわなかったものです。
奥邃もまた沈黙を言葉に翻訳してくれた人でした。
第二次世界大戦後、高村光太郎が岩手から東京に戻る直前に、
「私の愛読書」というアンケートに回答したそうです。
二十歳以前、二十代、三十代、四十代、現在、とあって、
最後の項目が「各年代を通じての座右の書」。
そこには、聖書、仏典、ロダンがあげられています。
高村光太郎が聖書を愛読していたということも、
北川さんの本で知りました。

 キーボードかじかむ指の言葉かな

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ハダハダ

 

 ハダハダや干して炙った祖父の指

秋田では鰰(ハタハタ)のことを、ハダハダといいます。
お行儀よくハタハタというと、
なんだか、ちがう魚のような気がします。
そのハダハダですが、今年は豊漁とのことで、
帰省する楽しみがふえました。
下の写真は、故郷のN美さんが送ってくれたものです。
N美さんは、子どもの頃から、
ハダハダをさばくのを手伝ったそうです。
寒い外の台所で、ハダハダの頭、内臓、尻尾を取り除きます。
台所のことを秋田では「みんじゃ」、
外にある台所だから「外みんじゃ」。
さばくことを「こしゃる」といいます。
手がかじかむので、ボールに入ったお湯にときどき手を入れ、
温めながら「こしゃだ」そうです。
そうしているときに、あられっこなんか降ってきたら、
もう、たまったものではありません。
想像しただけで、体がぶるっとします。
わたしは、母や祖母がさばくのを、傍で見ているだけでした。
男の子は、あまり手伝わなかったんじゃないでしょうか。

 防寒衣身ぐるみ脱いで風呂に入り

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あかぎれ

 

 メールあり踏んづけちまえ霜柱

昼、太宗庵に蕎麦を食べに行こうとして坂を下りていき、
途中、角のお店をひょいと見たら、中にいた店のおねえさんが
ぺこりと頭を下げたので、わたしもお辞儀を返しました。
ときどきチョコレートを買うぐらいで、
話をしたこともないのに、覚えていてくれたのかと思ったら、
うれしくなりました。
おねえさんの手は、かさかさ乾燥していて、
あかぎれ、とまではいきませんが、なんだかかわいそうです。
クリームを塗ってはどうか(塗っている?)と思うのですが、
わたしが言うのは変でしょう。
太宗庵で鍋焼きうどんの大盛りを食べました。
鼻汁がしこたま出て、テーブルの上はティッシュの山。
勘定を払い外へでて、おねえさんのお店に向かいました。
横綱あられとアーモンドチョコレートを買いました。
五百円玉を渡しお釣りをもらったのですが、
かすかに触れたおねえさんの指先は、少しかさかさしています。
クリームを塗ったらいいのでは…
やっぱり言うのを止しました。
会社に帰ってそのことを話すと、
「商売が上手なのかもしれませんよ」とナイ2くん。
なるほど。
意識してしていることとは思えませんが、
わたしのように感じている客の意識と視線を
おねえさんが意識していることは、
じゅうぶんあり得そうです。
でも、うがった見方をすれば、
おねえさんにかぎらず誰でも、
意識と無意識の境目は難しい気もまたします。

 珪藻土黴無き霜の時積もり

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減ると空く

 

 仕事よりこころのみ急く師走かな

ひかりちゃんりなちゃんのママが、おなかが減った、
と言いました。
なので、すかさずわたしは、おなかは空く、でしょう、
と主張しました。
減るのは腹。腹が減った。
『大辞林』を調べてみました。
まず、「減る」
例文に「腹が減った」がありました。やっぱり。
つぎに、「空く」
例文に「腹が空く」がありました。ん!?
てこことは、どっちでもいい?
なんだ。ただの思い込みか。
待てよ。
「おなか」を辞書で引いてみました。
そこに、おなか【御中】①〔もと女性語〕腹、とあり、
「おなかが空く」が載っていました。
すると、どういうことになるのか。
「腹」は「減る」でも「空く」でもいいけれど、
「おなか」は、やはり「空く」ということか。
それとも、この辞書の編纂者が、
たまたま「空く」をえらんだのであって、
「減る」でもいいのか。
ふむ。

 寒き日の厠に猫の顔みたり

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りなちゃんの ほんよみ

 

 ぽるとがるぶみお空が青いねマリアンヌ

 

ぼくのほんにもでてくる りなちゃんは、

ほんをよむのが とっても じょうずです。

ゆっくり よみます。

それで、このまえ うちにあそびにきたとき、

りなちゃんに『おさるのまいにち』を よんでもらいました。

いとうひろし というひとがかいた えほんです。

みなみのしまにくらしている おさるさんたちの おはなしです。

おさるさんたちは あさ おきると、

まず おしっこをします。

そこをよむとき、

りなちゃんは すこし はずかしそうにします。

ぼくは、かえるなげのところが すきです。

めをとじて きいていると、

みなみのしまの おさるさんたちのすがたが、

めに うかんできます。

りなちゃんの ほんよみで ぼくがいちばんすきなのは、

うみがめの おじいさんの「うんうん。」というところです。

おさるの「ぼく」が はなしかけると、

うみがめのおじいさんは、「うんうん。」と いいます。

「ぼく」は、うみがめのおじいさんのあたまを なでてやります。

なでたのは りゆうがあるけど、

ここには かきません。

そのときも うみがめのおじいさんは、ただ「うんうん。」

どんなきもちかな。そうぞうしながら ききます。

りなちゃんがきたら、また よんでもらいたいです。

おしまい。

 

 冬晴れのくもをさがしてひとめぐり

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