加賀谷書店

 

 上品の月に照らさる歌丸さん

拙著『出版は風まかせ』の注文を、
秋田市の加賀谷書店さんからいただきました。
加賀谷書店さんは、忘れられない書店です。
わたしの実家は秋田県南秋田郡。郡で済まずに、
その下には「字」もつきます。
農業を営む家が多く、
わたしの家も兼業農家でした。
齢八十に近づいた父は今も米を作っています。
農家であったことが言い訳にはなりませんが、
わたしの家は、本を読む習慣がありませんでした。
父も母も本を読みません。
わたしが小学四年生のとき、
母がわたしに本を買ってきてくれました。
森鴎外の『山椒大夫』と夏目漱石の『こころ』です。
近所の子どもと比べて人一倍本を読まぬ息子のことが、
心配だったのでしょう。
結局『山椒大夫』は読まずじまい、
『こころ』はタイトルが平仮名だし、読めるかなと思ったのですが、
さっぱり面白くありません。
すぐにほっぽってしまいました。
高校に入って、母からもらった本のことが気になりだし、
汽車(電車でなく汽車)通学でしたから、単行本は重いので、
新たに文庫本の『こころ』を買いました。
それを買ったのが加賀谷書店でした。
わたしの読書遍歴は、文庫本の『こころ』に始まったといっても
過言ではありません。
そのころは、出版社に勤めることも、
まして自ら出版社を立ち上げることも、
考えだにしませんでしたが、
先日、加賀谷書店さんから注文をいただき、
自分の人生がくるりと一巡したようにも思われました。

 月満ちて背赤後家蜘蛛毒を吐き

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