濱そば

 

 霜月の苔の階段妖しかり

JR保土ヶ谷駅のホームに「濱そば」という蕎麦屋があります。
そこのかき揚げ蕎麦は絶品です。
なにか特別のものが入っているのではと怪しむぐらいに美味い。
これです!

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少し厚手のかき揚げで、玉葱や人参だけでなく、
サクラエビが入っています。
かき揚げを箸で上から押し付け汁に浸す具合。
浸し終わったら細かく砕いてさらに汁に浸します。
かき揚げの油が汁に染み出し、S字を描きます。
レンゲの腹をゆっくり沈め、淵から汁が入ってくるのを待ちます。
まろやかな味の汁にほんのり野菜とサクラエビのエキスが加わり、
バランスのよい汁を舌に乗せ、しばし至福のときがながれていきます。
10秒、20秒。
そしてここからがいよいよ本番。
先ほどまでの静寂の時間を破るかのごとくに、箸をしっかりと持ち、
さざなみが立つような丼の面に荒々しく挑み、
艶やかな汁にひそむ蕎麦を多めにつかんで、顔を寄せカッと眼を見開き、
勢いよく一気に、ずずずーい、ずずずーい、と。
はーはーはー。くーっ!!
なんだか、とんでもなく欲望が満たされます。

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 鎌倉駅時空を嘗めし冬の風

日本図書館協会選定図書

 

 月出でて獣の夜になりにけり

拙著『出版は風まかせ』が日本図書館協会選定図書に選ばれました。
やったー!!
日本図書館協会のホームページに夜と、いえ、よると、
「日本図書館協会より任命された各専門分野の選定委員約 50 名が、
現物一冊一冊に必ず目を通し、
公共図書館に適している本として選択されたもの」とあります。
今は紙の本が売れなくなっている時代で、
図書館に置いてもらえるとありがたいなあと思っていましたから、
とても嬉しいです。
ただ、一つ気がかりなことがあります。
それは、191ページの1行目。
頭にきて書いた文章なので、つい、あのような差別語というか、
極めて汚い言葉を発してしまいました。
書いたときはそうでも、何度か校正する機会がありましたから、
そのとき直せばいいようなものですが、
汚い差別語ではあっても、それをおとなしい言葉に直したのでは
画竜点睛を欠くとでも申しましょうか、
文章全体の主旨がぼやけるとでもいうのか、
ともかく、最終的にわたしはその言葉を残しました。
選定図書には択ばれたいけれども、あの言葉があるからなあと、
本が出来てからも、悔やまないでもなかったのですが、
さすが選定委員、著者の言わんとするところを深く汲みとり、
択んでくださったのかと思うと、
涙が出るくらいに嬉しくなりました。
なりました。
が、はたとここで疑問がもたげたのも事実です。
選定業務についてホームページに載っている文章を読み返したら、
「各専門分野の選定委員約 50 名が、現物一冊一冊に必ず目を通し」
となっていて、「読む」とはどこにも書かれていません。
ということは、ひょっとして、
191ページのあの言葉、見逃したのか?
いやいやそんなことはあるまいよ。なんたって専門委員なんだから。
でも、しかし…。
とまあ、疑問が解決されたわけではありませんが、
択ばれたことは嬉しいので、191ページ1行目のことは、
そっとして置こうと思います。
さてと、今日は「春風目録新聞」の第5号が出来てくる日です。
特集のテーマは「紙の本」。楽しみ!

 長靴を一雨ごとの寒さかな

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枯れ松

 

 芒原さようならを堪へてをり

自宅の壁に珪藻土を塗ろうと思い立ち、その準備として、
下がコンクリートの部分の壁紙を剥がしました。
十三年経っていますから、なかなかスーッとは剥がれてくれず、
まるで枯れ松の皮のようです。
仕方がないかと諦め、
ちりちりちりちりと剥がし作業をつづけていたのですが、
たまに割りとスーッと剥がれるときがあり、
なんだか得した気分で、うれしくなります。
剥がすとき、壁面に直角に近く引っ張るのと、
剥がす壁紙を折り返し、
壁面を撫でるように引くのとでは微妙に違い、
引くスピードによっても違います。
ははー、この要領でやればいいんだなと早合点は禁物で、
また、ビリとすぐに千切れてしまったりの繰り返し。
とこうしているうちに、壁一面を剥がし終えます。

 壁紙を剥がす指先かじかみぬ

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Shumpu Photo Story

 

 三十年の冬をくるりのマニ車

ご好評いただいている弊社ホームページが
さらにバージョンアップしました。
トップページの上段に
橋本照嵩カメラマンが撮影した写真を掲載していましたが、
トップページを開けるたび、
季節を感じさせる写真50枚(のうちの一枚)が登場します。
題して、Shumpu Photo Story.
略して、SPS.
「斎藤のパンツは醤油臭い」の略ではありませんので、
よろしくお願いします。(って、だれも思わねぇよ。(笑)
こういうの一人ノリツッコミって言うんですかね。
ネットで調べたら、素人がうかつに手を出すと
非常に痛々しいとありました。それはともかく)
乱数表的に現れますので、
50枚あるのに、同じ写真が高い頻度で
(場合によっては二回つづけて)現れることもあれば、
なかなか最後の一枚が現れない場合もあります。
何回開けば全部見れるのか!?
ホームページがこんな風になったとオカピーから聞いて、
トップページを開いたら上の疑問がもたげ、止められなくなりました。
つい夢中になり、パソコン画面上の更新アイコンを
クリッククリッククリック…、切りがありません。
ほどほどにしましょう。

 水の上に石焼き芋の昭和かな

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骨湯

 

 酒ほろりほろりほろりの夜寒かな

JR保土ヶ谷駅の改札を出、右手の階段を下りた正面に
富士ガーデンというスーパーマーケットがあります。
その建物に賃料を払っているのか、
八百屋と魚屋は、外部の店が入っているようです。
名前を覚えていませんが、
そこの魚屋の干物(に限らずですが)絶品です。
昨日は、赤魚の味醂干しでした。
わたしはこのごろ、これを食べるのを目的で生きています。
ほんと。これです!

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これさえあれば、ほかはもう、
香の物と味噌汁とサラダと酢の物と芋の煮っ転がし
(って、結構あるじゃん)ぐらいあれば、ほかに要りません。
最後は熱湯を注いで骨湯にします。
柚子を絞って垂らしたり、
塩や醤油を少々入れたりもするようですが、
わたしは、ただ熱湯だけを注ぎ、箸でゆっくり掻き混ぜて
魚の旨み成分を湯に溶かしていただくのが好きです。

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 旨過ぎて冬日の夕餉骨湯かな

ふんばる

 

 ほうとうの白人参の甘さかな

自宅のベランダに、よく猫が来ます。
狸もでるぐらいの無頼な山ですから、
野良猫はそこら中にいます。
帰宅途中、階段を上っていると、
多いときは五、六匹も目にします。
泰然自若というか、人が通ってもどこ吹く風と、
傍若無人の猫たちです。

ベランダのことでした。
朝、この日記を書き終り、ふと外を見ると、
猫がいます。まだ子どものようです。
土の入った鉢に上り、
うずくまって日向ぼっこをしているようです。
気持ちのいい朝でしたから。
と、おもむろに立ち上がり、腰を低くし、
なにやら踏ん張る風情です。
ここで気付けばよかったのですが、
生来観察好きな性格がわざわいし、猫のなすがままを見つづけました。
ハッと思って窓を開け、パチンと両手を合わせたのですが、
時すでに遅く、青汁を固めたようなソレが
存在感たっぷりに鎮座ましましていました。
まさに糞張る!

 猫騙しそれでも糞する野良の秋

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加賀谷書店

 

 上品の月に照らさる歌丸さん

拙著『出版は風まかせ』の注文を、
秋田市の加賀谷書店さんからいただきました。
加賀谷書店さんは、忘れられない書店です。
わたしの実家は秋田県南秋田郡。郡で済まずに、
その下には「字」もつきます。
農業を営む家が多く、
わたしの家も兼業農家でした。
齢八十に近づいた父は今も米を作っています。
農家であったことが言い訳にはなりませんが、
わたしの家は、本を読む習慣がありませんでした。
父も母も本を読みません。
わたしが小学四年生のとき、
母がわたしに本を買ってきてくれました。
森鴎外の『山椒大夫』と夏目漱石の『こころ』です。
近所の子どもと比べて人一倍本を読まぬ息子のことが、
心配だったのでしょう。
結局『山椒大夫』は読まずじまい、
『こころ』はタイトルが平仮名だし、読めるかなと思ったのですが、
さっぱり面白くありません。
すぐにほっぽってしまいました。
高校に入って、母からもらった本のことが気になりだし、
汽車(電車でなく汽車)通学でしたから、単行本は重いので、
新たに文庫本の『こころ』を買いました。
それを買ったのが加賀谷書店でした。
わたしの読書遍歴は、文庫本の『こころ』に始まったといっても
過言ではありません。
そのころは、出版社に勤めることも、
まして自ら出版社を立ち上げることも、
考えだにしませんでしたが、
先日、加賀谷書店さんから注文をいただき、
自分の人生がくるりと一巡したようにも思われました。

 月満ちて背赤後家蜘蛛毒を吐き

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