リラクゼーション

 

 無花果やスーパー口の箱七つ

夏の疲れが出る頃なのか、
夕飯が終わると、ドテッとなることしばしばです。
床に仰向けに寝転がり、椅子を引き寄せ、
膝から下を椅子の腰掛のところに乗せます。
だらしないといえば、実にだらしない恰好ですが、
これがなんとも気持ちいい!
そうしているうちに、寝てしまうこともあります。
ハッと眼が覚め、まずいまずい、ちゃんと布団に入らなきゃ、
なんて。
布団がなつかしい季節になってきました。

 酢橘もて玄関に立つおとこあり

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アメリカの朝

 

 気持ち良くて泣きたくなるよ秋の空

ニューヨーク発のパイとアメリカ料理のお店バビーズ横浜が
桜木町にオープンして三ヶ月が過ぎました。
入ったことはありませんが、前を通る30秒ほどの間、
なんとなくアメリカを感じさせてくれます。
外観が日本的にアレンジされてないというか、
アメリカの雰囲気が損なわれないようにこっそり移転させた
みたいな感じ。
一番は音楽のせいかも知れません。
お、今日はベッシー・スミスか。今日は、マイルス・デイヴィス。
ビリー・ホリデイ! ハービー・ハンコックかな?
携帯電話の着信音ほどの時間ですが、
アメリカの朝を勝手にイメージして歩きます。
少し歩調がゆるくなります。

 交通を遮断し闇の虫すだく

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ありがとう竹内敏晴さん

演出家の竹内敏晴さんが今月七日、膀胱癌のため、
亡くなられました。享年八十四。
先月二十九日、竹内敏晴構成・演出の『八月の祝祭』が
東京で行われました。
わたしは開演に五分ほど遅れて会場に着きました。
重いドアを開けたら、
車椅子に乗った竹内さんが舞台挨拶をしていました。
あまりの変わり様に驚きました。
体調が悪そうで、挨拶半ばで退場し、
スタッフの一人が竹内さんの原稿を代読しました。
二時間半の舞台が終わって、会場を出ると、
車椅子に座った竹内さんがそこに居ました。
受付のところの数名のほかは、まだだれも居ません。
わたしはすぐに竹内さんに近づき、握手しました。
竹内さんは、黙ってわたしを見ました。
小さくなった竹内さんに驚き、なんと声をかけたらいいか分からず、
わたしは手を離し、隅のほうへ行きました。
やがて会場からどやどやとお客さんが出てきて、
竹内さんに挨拶をしています。
わたしはしばらく
竹内さんとお客さんたちのやり取りを見ていましたが、
竹内さんは頷くばかりで、ほとんど口を開きませんでした。
よほど具合が悪いのでしょうか。
誰かが「今日の舞台良かったですよ」と声をかけたとき、
竹内さんは、指でサッと涙をぬぐったようでした。
わたしは竹内さんの奥様と少し話をした後、
もう一度竹内さんのところに行き、しゃがんで、手を握り、
お礼をいいました。
竹内さんは、わたしの手を握り返し、
また、黙ってわたしを見ていました。
いけないいけないと我慢しましたが、
涙がこぼれてきて仕方ありませんでした。
竹内さん、竹内さん、竹内さん、竹内さん、と声をかけながら、
竹内さんの膝や脚をさすりました。
これが竹内さんとの最後だと直感しました。
それから一週間で竹内さんは旅立たれてしまいました。
いただいたものが多すぎて、言葉になりません。
仕事を通じて、少しでも形にしていけたらと思います。
ありがとうございました。

ご冥福をお祈りします。

俗説?

 

 恥ずかしきことの数々秋の風

やまいだれに寺と書いて、痔です。
なんで、やまいだれに寺なのか?
わたしは勝手に、寺のお坊さんというのは、
座禅なんかしてお尻のあたりの血流が悪くなり、
とくに肛門の辺りが鬱血し、
(この「鬱血」という字、すごいですねー。ものすごい藪みたいで、
血の巡りが滞っている感じが、見るだけで伝わってきます。
それはともかく)
それで痔になるお坊さんが多いのかもしれないと思っていました。
もともと寺だったところが痔のクスリを売ったりもしていますから。
血流の悪さに原因を求めずに、
寺というのは、かつて女人禁制であったからという説もあります。
また、痔というのは治りにくい病気で、寺(=死)まで持っていく
病気であるところから来ているという説だとか。
ところが、
女性専用の肛門科「松島ランドマーククリニック」のサイトに、
まったく違うことが紹介されていました。
いわく、
痔のもともとの字は「痔」ではなく「峙(じ)」で、
「峙」は「そばだつ」と読み、
「孔(あな)の周りに立ち上がっているもの」の意味である。
だから、肛門に限らず、人の体の穴の周りにできる腫れ物は
すべて「峙」だった。それがいつの頃からか
肛門の周りにできたものだけを「峙(じ)」と呼ぶようになり、
またその部首が「やまへん」から
病気をあらわす「やまいだれ」に変わった…。
上の説が正しいとすれば、
死ぬまで(寺に行くまで)治らない病気だから「やまいだれに寺」と書く、
というのは俗説ということになります。
松島ランドマーククリニックの院長先生も、そう書いています。
あーあ、ずいぶん俗説を広めてしまったよなー。

 遥かなる銀河鉄道秋の風

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猫死

 思い出はしょっぱい味の鰯雲

昨日のことです。
いつもの階段を下りてゆくと、猫がくたりと倒れていました。
ギョッとして、一瞬、立ち止まりました。
死んでいるのか? でも、毛並みはいいし…。
どうして死んだんだろう。
猫いらずでも間違えて食ったか?
それとも、いたずらをし、猫踏んじゃったのメロディーを
ニャニャニャンニャンニャン、ニャニャニャンニャンニャンと唱えながら
ピアノの鍵盤の上を歩き廻っているうちに
指を隙間に挟んで骨を折ったかなんかして、
それが災いし餌を食べられなくなくなり、
それでとうとう逝っちまったのか? そうなのか?
と、
体の陰に隠れて見えなかった尻尾がアンテナのように、
ピンと立つではありませんか。
潜望鏡みたいでもあります。潜水艦の。
それから、へにゃりと倒れました。
ほ。
なんだよ。脅かすなよ。吃驚するじゃないか。
しばらくすると、例の尻尾が
またアンテナのようにピンと立ちます。
人が指を嘗めて風の具合を確かめるような、あんな感じです。
寝転がったままそんなことをしているのですから、
横着な猫かもしれません。

 けふの日のけふのいのちの鰯雲

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職人椅子

 虫の音に浮かれ一反木綿かな

ノルウェー・ホーグ社製のバランスチェアは、すこぶる快適です。
膝に重心がかかり前傾姿勢になろうとする体が
バランスを取ろうとするので、自然に背筋が伸びることになります。
集中して仕事ができ、心なしか一日が早く感じられます。
難点というほどのことではありませんが、
膝が当たるクッションが少し硬めなため、
短時間ならまったく問題はないのですが、二時間三時間と
同じ姿勢を保っていると、少し膝が気になりだします。
一計を案じ、膝当てのところを座布団でくるみ、
紐で結わえ付けました。
すると、どうでしょう。何時間でも一日でも、
同じ姿勢を保つことができそうです。
これはほんとに優れものです。

 鳴きすぎて蝉の死体の軽(かろ)きかな

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一日七ページ

 虫の音のバトンリレーに歩を進め

『大日本地名辞書』(全八巻、各巻平均九七八ページ!)
の著者・吉田東伍は、執筆に十三年間かかったそうですが、
日曜・祭日もなく三六五日、
一日七ページ書いたというから驚きです。
それも、小説のような創作ではありません。
調べて書くのですから想像を絶します。
吉田は、大正七年一月、五十三歳の若さでなくなりましたが、
築地本願寺で行われた追悼集会で演説した
市島春城(いちじましゅんじょう)は、
十三年間で出来たというのはむしろ驚くべきことで、
普通は一生涯かかる大事業であると、その偉業を称えたそうです。
そうすると、吉田の部屋には万巻の書があったのではと想像しますが、
そんなことはなく、大きな机が一個あっただけだとか。
とにかく本を読むスピードと記憶力が並大抵ではなく、
どんな分厚い難しい本でも十日と借りたことがなかったそうです。
人から蔵書について尋ねられると、
自分は図書館を利用するから、持つ必要がない…。
く~、恰好良すぎて、真似できません。
天才というのはいるものなのですね。

 脛の毛を撫でて海まで秋の風

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