浮雲

 父母にシャツを買ふて帰る盆

成瀬巳喜男監督の最高傑作の呼び声が高い
『浮雲』を観ました。
成瀬監督のものを観たのは初めてです。
いいですねえ。
いわゆる不倫の話なんですが、
森雅之演じる女房持ちの男の
巧まずしての女たらしぶりが絶妙で笑わせてくれます。
この映画で森は「俳優を辞めたい」と漏らすほど
落ち込んだそうです。
戦争中、高峰秀子演じるゆき子は
農林省のタイピストとしてベトナムを訪れ、
そこで農林省技師の富岡に会います。恋に落ちた二人は、
帰国してから結婚することを約束しますが、
富岡には妻がいました。
妻と別れて一緒になることをゆき子に約束しますが、
後から帰国したゆき子が富岡の家を訪ねると、
富岡は妻と別れてはいませんでした。
再会を果たしたゆき子が富岡を詰る場面で、
「奥さん、どうして前歯に金歯なんかはめてんの?」
には笑ってしまいました。
かなり深刻な映画ですが、
ところどころに笑いを誘う場面があって、愉しく観ました。
最後に二人が行った屋久島で、ゆき子は亡くなりますが、
富岡が亡骸に抱きついて号泣するところは、
フェリーニの『道』を髣髴させます。
インスパイアされたのかなと思って調べてみたら、
『道』の日本公開が1957年、
『浮雲』の公開が1955年ですから、それはなさそうです。
でも、観終わった印象は、
『道』からキリスト教を抜き去った映画という感じで、
逆にすごく宗教的な映画だとも思いました。

 盆みやげ母に似合ふを見つけたり

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