高調子は損

 青山を仰ぎ波打つ青田かな

弊社の男性社員は、わたしを除き総じて滑舌が悪い!
「え?」「なに?」「なんて言った?」と、
訊き返すことしばしばだ。
編集長ナイ2は哲学、オカピーは言語学、テラチーは心理学を
それぞれ専攻した優秀な学徒であり、
低い声で滑舌悪く話されると、相当深い話をしているかと思って、
こちらとしては訊き返すことがはばかられる。
場面と文脈から、空気の震え、唇の震えを読むようにし
聞き取ろうとする。それでも聞き取れず、
訊き返すことがなんとなくしづらい時は、あいまいに受け答え、
犬のように笑うしかない。
よほど深い話だったのではと気になり、仕事が手につかず、
勇気を出して訊き返してみたところが、
「最近のポテトチップスで美味しいもの、なんかありますか?」
みたいなことが間々ある。
教訓。滑舌の悪い低い声の話には気をつけるべし!
高調子は損をする。
ジャパネットたかたの高田明社長のあの声、
どうしたって哲学や言語学や心理学には似合わない。
「さあみなさん、ハイデガーの存在と時間、買いましたかー?
まだ買っていない人のために、今回は特別、
いま流行りのマルクスの資本論をつけて、なんと5000円!
手数料なしの10回分割払いのお得なコースもあります。
どうですみなさん。ハイデガーとマルクスが
ひと月たった500円で自分のものになるんです。
オンナの子にもモテモテ!
金利はジャパネットたかたが負担します」
ぼくは高田社長が好きなので、すぐ買っちゃいそうだけど、
ウチの滑舌の悪い三人は絶対乗らないだろうなあ。

 山背来て銀色しずくの稲穂かな

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端居

 祖父のもと足投げ出して端居かな

家の端近くに出て座っていること。はしい。
特に夏、涼をとるため縁先などに出ること。夏の季語。
『大辞林』の説明に、そうあります。
この言葉を最近、坪内稔典『季語集』(岩波書店)で知りました。
すぐに思い出したのが、祖父の姿です。
秋田の実家は風通しがよく、夏になると
祖父は決まって洋間のソファーに寝転がり、
片手を額にかざすような恰好で昼寝をしていました。
口が少し開いています。
祖父の場合、座らないで寝転んでいましたから、
端居ではなく端寝、ですかね。
ともかく、その姿を見ているだけで安心したものです。
祖父が居なくなって、その安心が
どこかへ飛んでいってしまいました。

 からからと蝉八匹転がれり

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ババヘラアイス

 口開けて手は額まで端居かな

秋田の夏の風物詩といえば、
このごろはババヘラアイスかもしれません。
クルマで国道を走っていると、
ちょっとしたへっこみのところに
大きなパラソルが立っていて、あ、ババヘラだ!
ということになります。
ババヘラのババは「婆」、ヘラは「箆」でしょうか。
最初は名前などなかったのが、
いつからか、だれ言うともなく、
そう呼ばれるようになったのではないかと
思っているのですが、正確なことはわかりません。
ババとは言うものの、そんな婆ではありません。
頭には、アレ何というのでしょう、サンバイザーでもないし、
田植えのときに被るような庇のついた帽子というか、
サンバイザーの上から手ぬぐいで頬かむりしているというか、
とにかく、暑さをしのぐ恰好をしています。
一日中一人で椅子に座っているのですから、
修行みたいです。
一個200円でした。

 端に居る祖父の膝かぶ風ふるふ

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ボルトとゲイ

 歳近き叔母にハンカチ盆みやげ

ベルリンで開催されている世界陸上
男子100メートル決勝で、ウサイン・ボルトが
9秒58の驚異的な記録で優勝しました。
二着は9秒71のタイソン・ゲイ。
0時30分ぐらいまでテレビを見ていましたが、
サブトラックでリラックスしているボルトのライブ映像を見、
これはまだまだ走らないなと諦め、床に就きました。
今朝起きてすぐにテレビを点けたら、
このごろの不景気を吹き飛ばすような、
まさに天才の走りが映し出されました。凄い!
二次予選でのボルトの横を向きながらの走りも、
後から思えば、リラックスするための
彼なりの方法だったのでしょう。
対してゲイはいえば、どこか修行僧を彷彿とさせます。
2メートル先を行くボルトを追いかける
ゲイのひたむきな走りも眼に焼きつきました。

 祖父がいて風吹き抜けし端居かな

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コメント欄

 盆みやげ女性フロアを三巡り

さすが我が社のアートディレクター多聞くん、
新しいホームページ、とても好評です。
書籍紹介のページが厚くなり、
書影も大きく見られるようになりました。
橋本照嵩さんの写真がくるくる替って現れるのも
楽しみの一つです。
さて、「よもやま」へコメントをくださる場合ですが、
「よもやま」のページを開いたところにはその欄が
ありません。ちょっとお手数ですが、
「よもやま」のタイトルを再度クリックしていただくと、
コメント欄が現れます。

さて、弊社は明日より16日までお盆休み
とさせていただきます。
ご用の方は、留守番電話かメールで
お知らせいただければ幸いです。
よろしくお願いします。

 母はM父は2L盆みやげ

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浮雲

 父母にシャツを買ふて帰る盆

成瀬巳喜男監督の最高傑作の呼び声が高い
『浮雲』を観ました。
成瀬監督のものを観たのは初めてです。
いいですねえ。
いわゆる不倫の話なんですが、
森雅之演じる女房持ちの男の
巧まずしての女たらしぶりが絶妙で笑わせてくれます。
この映画で森は「俳優を辞めたい」と漏らすほど
落ち込んだそうです。
戦争中、高峰秀子演じるゆき子は
農林省のタイピストとしてベトナムを訪れ、
そこで農林省技師の富岡に会います。恋に落ちた二人は、
帰国してから結婚することを約束しますが、
富岡には妻がいました。
妻と別れて一緒になることをゆき子に約束しますが、
後から帰国したゆき子が富岡の家を訪ねると、
富岡は妻と別れてはいませんでした。
再会を果たしたゆき子が富岡を詰る場面で、
「奥さん、どうして前歯に金歯なんかはめてんの?」
には笑ってしまいました。
かなり深刻な映画ですが、
ところどころに笑いを誘う場面があって、愉しく観ました。
最後に二人が行った屋久島で、ゆき子は亡くなりますが、
富岡が亡骸に抱きついて号泣するところは、
フェリーニの『道』を髣髴させます。
インスパイアされたのかなと思って調べてみたら、
『道』の日本公開が1957年、
『浮雲』の公開が1955年ですから、それはなさそうです。
でも、観終わった印象は、
『道』からキリスト教を抜き去った映画という感じで、
逆にすごく宗教的な映画だとも思いました。

 盆みやげ母に似合ふを見つけたり

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蝉の飛翔

 生きて鳴き死んで鳴かずも同じ蝉

家を出て直ぐの階段のところに蝉が死んでいました。
アブラゼミです。
このごろは、あちこちでよく見かけます。
コンクリートの上にひっくり返って、やるせない。
しゃがんで蝉の死骸を手に取り、
どこか緑のある場所に放ってやろうかと思ったそのとき、
指の間でジジジと震えたかと思ったら、なんとその蝉、
空高く舞い上がり、
ぐんぐん飛んで見えなくなってしまいました。
100パーセント死んでいると思いましたから、
驚いたのなんの。
うちの会社のテラチーがゲジゲジを見て卒倒しそうになる
その驚きにも勝るとも劣らないほどのビックリでした。

 蝉鳴きて最期の飛翔やつかまらず

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