おかえりなさいませ

 水盗む人も懐かしふるさとは
つい先日のことです。
仕事帰り、汗を掻き掻き階段をあがり
ゆるい坂道をさらに上っていました。
ゴミ集積所の角を曲がったところで、
杖をついた見知らぬ老婆に出会いました。
覚束ない足取りで、こちらに歩いてきます。
わたしはちょっと立ち止まり、
少し道を空けるように体をずらしました。
すると、老婆は、
「おかえりなさいませ」と言って、
丁寧におじぎしました。
わたしはあわてて、
「あ。はい。ただいま帰りました。どうも…」
それだけです。
歩を進め、坂道を上り切ったところで
ちょっと振り返ってみました。
老婆はわたしの方を見て、手を振っています。
わたしも手を振りました。
妙な具合でしたが、まあいいかと思いました。
 追ひかけて夜に闇あり蛍狩

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