父からの電話

 梅雨浸透青汁瓶の裏表
東洋英和女学院大学へ行ってきた。
閑静な山間にあるキャンパスは大きすぎず、
自然と一体になっており、学ぶにはいい場所と思われた。
大学の先生方三人と打ち合わせをしている最中に
鞄の中の携帯電話が鳴った。
プロディジーのホット・ライド、うるさい曲だ。
電話の着信に父の名前が表示されている。
条件的な話の緊張した沈黙が流れているときだったから、
余計あわててしまった。あわてて、
どこのボタンを押していいのか分からなくなり、
結局、最後まで曲はつづいた。
打ち合わせが終わり、建物の外へ出てから、
父に電話した。何か急用でもあったのか?
「電話したろう。どうした?」
「午前中、山に行ってミズを採ってきたからさ。熊は出なかったよ」
「そうか。それはよかった」
「金曜日の夜に届くように送るからな。作りかたは、このあいだ母さんから聞いたろう」
「うん。分かってるよ」
「じゃあな」
「はい。どうも」
ミズという山菜を叩いてつぶして味噌と山椒とあえる
ミズタタキが食いたいかと前の電話で訊いてきたから、
ああ食いたいと言ったので、
さっそく父は山へミズを採りに行ってきたのだ。
「熊は出なかったよ」というのは、
そのときの話で、町にこのごろ熊が出没しており、
くれぐれも注意するようにとのお触れが
有線放送で流れているとの話に由来する。
ミズタタキは食べたいけれど、熊が心配だから、
送ってくれなくてもいいよと改めて
父に電話していたのだが、
父はわたしの警告を無視し山へ入り、
ミズを採ってきてくれたのだった。
だから、
「仕事の最中に電話してくるな」とはとても言えなかった。
 青汁を飲んで六月沈みをり

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