はなこ豚強(こわ)い毛並みもおぼろなり
『男はつらいよ』のDVDをまた二本借りて、踏み切りを渡り、国道一号線脇の裏通りをしばらく歩いた。
昼、越後製菓の「ふんわり名人」を食いながら歩いていたら、小料理千成の女将さんにばったり会い、袋から一個取り出し女将さんの口へ放り込んだのもこの通りだった。「どうです? 美味しいでしょう!」女将さん、目を白黒させて、「うん、うん」と返事をした。
中華料理店の裏手を左に見、小造りの家を二軒ほど遣り過ごすと、沈丁花の香りがフッと鼻を掠めた。暗闇に白い花弁がぼーと浮かんでいる。
ほんの数分のことながら、気分も落ち着き、左へ折れて再び国道沿いの道に出た。
春眠の瞼を指で離しけり