たけし

 鼻もぐな破れかぶれの花粉症
 こんな夢を見た。
 その日、わたしの家にたけしがいた。ビートたけし、北野武のたけしである。普通に、いた。
 わたしとたけしは、二、三メートルの距離を置き、ウロボロスのような位置関係で、ひじを枕にして寝そべっていた。ふと見ると、わたしのすぐそばに、鎌首をもたげたコブラがいた。ぺろぺろと舌をだしたりしている。恐ろしいことになってきた。落ち着け落ち着けと自分に言い聞かせ、あたりを見ると、なんと、もう一匹いるではないか。万事休す!
「たけしさん、たけしさん、おどろかないでくださいよ。そのままの姿勢で、目も動かさずに、黙ってきいてください。……この部屋にコブラが来ています。それも二匹」
 たけしは微動だにしない。こころなしか不敵な笑みを浮かべているようにさえ見える。さすが世界の北野はちがう。泰然自若とは、こういうことを言うのだろう。
 と、ああああああああっっっっっ!!!!!!!
 たけしが飛んだ! 飛んだ!
 オバQでもあるまいに(古いか)、鉄人28号でもあるまいに(古いか)、マジンガーZでもあるまいに(古いか)、とにかく、空を飛んだ。飛んでいった。
 わたしはコブラの存在など忘れてしまい、世界の北野を追いかけてすたこらさっさと走った。たけしはすでに然る場所に到着していて、軍団の若い連中に自分の雄姿を告げている。
 やはり、世界の北野だ!
 わたしは感慨にふけりながら帰路につく。家に着いた。まだコブラがどこぞに潜んでいるやもしれず、抜き足差し足で部屋に入った。
 きゃっきゃっと聞いたことのある声がする。見れば、柳原可奈子。
「いらっしゃいませー」いつものあの高音。
 わたしは、なんだか可笑しくなってきた。
「あなた、遅かったじゃないの」柳原可奈子がしなを作って、まとわりついてくる。
「馬鹿、おまえ、そんなことして、コブラが潜んでいるかもしれないんだぞ」
「まあ怖い」全然怖そうでない。
 柳原のおかげで、怖い気配がとんでしまった。
 ベランダを小っちゃなエリマキトカゲが二匹、ぱたぱたと走っていった。
 インフルのウイルス気で追ふりーこかな

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